大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成元年(特わ)259号・平元年(刑わ)753号・平元年(特わ)361号 判決

主文

一  被告人甲を懲役一年に、同乙及び同丙をいずれも懲役二年に、それぞれ処する。

二  この裁判確定の日から、被告人甲に対し二年間、同乙及び同丙に対しいずれも三年間、それぞれその刑の執行を猶予する。

三  被告人乙及び同丙から、それぞれ金二二七〇万円を追徴する。

四  訴訟費用<省略>

理由

(認定事実)

第一被告人らの職務権限等

一  被告人甲は、株式会社リクルート(以下「リクルート」という。)の関連会社で金融業を主とするファーストファイナンス株式会社(以下「ファーストファイナンス」という。)の代表取締役社長をし、Aは、リクルートの代表取締役社長をしていた。

二  Bは、昭和六〇年四月一日、従前の日本電信電話公社の民営化に当たり、日本電信電話株式会社法に基づいて、右公社の業務を継承して、国内電気通信事業、これに付帯する業務及びその他会社の目的を達成するために必要な業務を営むことを事業目的として設立された日本電信電話株式会社(以下「NTT」という。)の代表取締役社長に就任し、同六三年六月二八日までの間、同社を代表し、同社社員を指揮監督して、右業務全般を統括する職務に従事していた。

三  被告人乙は、(一)昭和六〇年四月一日から同六一年六月二五日までの間、NTTの取締役・東京総支社長として、地域の電話サービスに係る企画・開発、設計、建設、販売、メンテナンス等の事業経営に関する業務について、所属の社員を指揮監督して右事業を運営する職務に従事し、(二)同月二六日から同六二年三月五日までの間、NTTの取締役・データ通信事業本部長として、データ通信サービスに係る企画・開発、設計、建設、販売、メンテナンス等の事業経営に関する業務について、所属の社員を指揮監督して右事業を運営する職務に従事していた。

四  分離前の相被告人Cは、昭和六〇年四月一日から同六二年一月一九日までの間、NTTの企業通信システム事業部長として、大規模な複合通信システムのコンサルティング、設計、建設、販売等の事業経営に関する業務について、所属の社員を指揮監督して右事業を運営する職務に従事していた。

五  被告人丙は、昭和五八年七月五日から同六一年六月一六日までの間、文部省初等中等教育局長(以下「初中局長」という。)として、教育課程・学習指導法等初等中等教育のあらゆる面について、教育職員その他の関係者に対し、専門的・技術的な指導と助言を与えること、初等中等教育における進路指導に関し援助と助言を与えること、文部大臣の諮問機関である教育課程審議会に関すること等の同局の事務全般を統括する職務に従事し、その後同月一七日から同六三年六月一〇日までの間、文部事務次官として、文部大臣を助け、省務を整理し、同省各部局等の事務を監督する等の職務に従事していた。

第二罪となるべき事実

一  1 被告人甲は、Aと共謀の上、昭和六一年九月上、中旬ころ、東京都中央区銀座八丁目四番一七号所在のリクルート本社等において、第一の三の(一)記載の職務に従事し、引き続き同(二)記載の職務に従事していた被告人乙に対し、リクルートが、全国規模で回線リセール事業を展開するに当たり、NTTから提供を受けた高速デジタル回線等で構築する通信ネットワークの設計、建設等につき種々の支援と協力を受けたことに対する謝礼の趣旨のもとに、同年一〇月三〇日に社団法人日本証券業協会(以下「証券業協会」という。)に店頭売買株式として店頭登録されることが予定されており、右登録後確実に値上りすることが見込まれ、右Aらと特別の関係にある者以外の一般人が入手することが極めて困難である株式会社リクルートコスモス(以下「コスモス」という。)の株式一万株を、右登録後に見込まれる価格より明らかに低い一株当たり三〇〇〇円で同年九月三〇日付けで譲渡したいとの申し出をし、その旨了承を得て譲渡手続をした上、同日これを取得させ、もって被告人乙の第一の三の(一)記載の前記職務に関してわいろを供与した。

2 被告人甲は、Aと共謀の上、同年九月上、中旬ころ、同都千代田区内幸町一丁目一番七号所在のNTT企業通信システム事業部において、第一の四記載の職務に従事していたCに対し、リクルートが、全国規模で回線リセール事業を展開するに当たり、NTTから提供を受けた高速デジタル回線等で構築する通信ネットワークのコンサルティング、設計、建設、保守等につき種々の支援と協力を受けたことに対する謝礼及び今後も同様の支援と協力を受けたい趣旨のもとに、右1記載のコスモスの株式五〇〇〇株を、右登録後に見込まれる価格より明らかに低い一株当たり三〇〇〇円で同月三〇日付けで譲渡したいとの申し出をし、その旨了承を得て譲渡手続をした上、同日これを取得させ、もってCの前記職務に関してわいろを供与した。

3 被告人甲は、Aと共謀の上、同年九月上、中旬ころ、同区内幸町一丁目一番六号所在のNTT本社において、第一の二記載の職務に従事していたBに対し、リクルートが、全国規模で回線リセール事業を展開するに当たり、NTTから提供を受けた高速デジタル回線等で構築する通信ネットワークの設計、建設、保守等につき種々の支援と協力を受けたことに対する謝礼及び今後も同様の支援と協力を受けたい趣旨のもとに、右1記載のコスモスの株式一万株を、右登録後に見込まれる価格より明らかに低い一株当たり三〇〇〇円で同月三〇日付けで譲渡したいとの申し出をし、その旨了承を得て譲渡手続をした上、同日これを取得させ、もってBの前記職務に関してわいろを供与した。

4 被告人甲は、Aと共謀の上、同年九月上、中旬ころ、同区霞が関三丁目二番二号所在の文部省事務次官室において、第一の五記載の職務に従事していた被告人丙に対し、リクルートの行う進学情報誌の発行事業の遂行にとって利益となる同会社役職員の教育課程審議会等文部省所管の各種委員会・会議の委員への選任に対する謝礼及び今後も同様の取り計らいを受けたい趣旨のもとに、右1記載のコスモスの株式一万株を、右登録後に見込まれる価格より明らかに低い一株当たり三〇〇〇円で同月三〇日付けで譲渡したいとの申し出をし、その旨了承を得て譲渡手続をした上、同日これを取得させ、もって被告人丙の前記職務に関してわいろを供与した。

二  1 被告人乙は、第一の三の(一)記載の職務に従事し、引き続き同(二)記載の職務に従事していたものであるが、右一の1記載のころ及び場所において、A及び被告人甲から、同記載の趣旨並びにリクルートが営むRCS事業に使用するため購入したクレイ・リサーチ社製スーパーコンピューターの設置等について支援と協力を受けたこと及び今後も同様の支援と協力を受けたいとの趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら、同記載のコスモスの株式を、右登録後に見込まれる価格より明らかに低い一株当たり三〇〇〇円で一万株譲り受ける旨了承し、同月三〇日これを取得し、もって自己の前記各職務に関してわいろを収受した。

2 被告人丙は、第一の五記載の職務に従事していたものであるが、右一の4記載のころ及び場所において、A及び被告人甲から、同記載の趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら、同記載のコスモスの株式を、右登録後に見込まれる価格より明らかに低い一株当たり三〇〇〇円で一万株譲り受ける旨了承し、同月三〇日これを取得し、もって自己の前記職務に関してわいろを収受した。

(証拠の標目)<省略>

(事実認定に関する説明)

以下、関係証拠によって認められる事実を明らかにしつつ判断を加えることとする。

第一章わいろとなり得る利益について(判示全事実)

第一前提事実

一 本件コスモス株の店頭登録に至る経緯

コスモスにおいては、株式を公開して資金調達を図るなどを目指し昭和五九年秋ころからその準備を進め、同六一年二月二四日開催の取締役会で、幹事証券会社への申請を同年八月一日に行うなどの株式店頭公開スケジュールを決定し、同年五月一九日開催の取締役会で、公開は既に事実上決まっていた分売方法によること等が決定された。その後同年七月二八日開催の取締役会で、来る九月一日に幹事証券会社が証券業協会に対して、株式店頭登録申請を行うこと、同年八月一九日開催の取締役会で、店頭登録は同年一〇月下旬を予定すること、分売株数はA所有の二八〇万株とすること、最低分売価格は一〇月上旬に決定する旨各承認された。

二 分売の方法及び分売価格の決定方法等

ここにいう分売方法とは、店頭登録日、すなわち売買開始日に、当該株式会社の創業者等が所有している既発行株式のみを、分売人である右創業者等が前もって証券会社を通じて行っていた売委託と、それに対して証券会社が投資家から受けていた買注文の結果により、一種の入札の形で決定された売買開始日における売買価格(初値)である分売価格で分譲して株式を公開する方法をいう。この売委託の際に投資家に対して公開される株式の価格(分売価格)は、証券業協会の指導により、類似会社比準方式で算出することとされ、右算出された価格を最低分売価格とし、その三〇パーセント増しの価格を最高分売価格とし、初値である分売価格は、この最低分売価格と最高分売価格の範囲内で決定される。右の最低分売価格の算出は、店頭登録申請直前の決算期(コスモスの場合は四月三〇日)における当該株式公開会社の一株当たりの配当金・純利益・純資産と類似会社(業種・業態、業績等が類似する会社)のそれとを比較し、右協会に対する分売申告書提出直前一か月間の類似会社の平均株価を基準になされるもので、類似会社の株価の変化が少なければ、それ以外の算定要素は当該会社及び類似会社の決算が確定している限り、これを算出することは容易である。なお、類似会社をどの会社にするか、またいくつの社にするかについては、最終的には店頭登録を申請する幹事証券会社が決めるが、業種等によっては数社、場合によってはそれ以上が対象となると考えられるほか分売株として放出する創業者等の思惑もあって、最終決定に至る間に当初予定していた特定の類似会社が変更されるといった事態も起り得る。

三 従前の店頭公開における分売価格形成状況

コスモス株の店頭登録以前の三年間に分売により株式公開の行われた銘柄は、六銘柄であるが、いずれについても店頭登録日における初値は最高分売価格で決定され、その翌日以降の一般取引開始後の株価も相当期間初値以上で推移していた。

四 コスモス株の店頭登録当時の株式市場の情勢

コスモス株の店頭登録がなされた昭和六一年一〇月三〇日当時及びその直前である同年九月ころは、一般的に株式市場は活況を呈していて株価は上昇傾向にあった上、特にコスモスが属する不動産業界は、第五次マンションブームと呼ばれる程好況であった。

五 コスモスの業績

コスモスも、第一七期(昭和六〇年五月から同六一年四月まで)の決算は、前期に比べ、営業収入七〇・五パーセント増、経常利益九八パーセント増、当期利益六五八・一パーセント増とその業績を伸ばしており、そのマンション供給戸数においても、業界二位の業績を上げていた。したがって、店頭登録時に、コスモス株が、投資家の投資の対象として人気が出ることは当然に予想される状態であった。

六 コスモス株の店頭登録の状況及び実際の公開価格

コスモスは、昭和六一年一〇月一三日の取締役会において、最終的に、類似会社を大京観光株式会社、三井不動産株式会社の二社とし、同年九月一〇日から同年一〇月九日までの一か月間の平均株価を基にした類似会社比準方式により算定した最低分売価格四〇六〇円(最高分売価格は五二七〇円)を決定し、同月一四日幹事証券会社の大和證券株式会社ほか三社が連名で、証券業協会に、分売予定日を同月三〇日として右最低分売価格及び最高分売価格を記載した株式分売申告書を提出し、これを受けて同協会は、コスモス株の店頭登録を承認した。同月三〇日、コスモス株は分売方式により店頭登録され、初値は最高分売価格の五二七〇円が付き、その後も相当期間右初値を下回ることはなかった。

第二昭和六一年九月上、中旬における本件コスモス株の値上りの確実性とその予測並びにA及び被告人甲の認識

一 値上りの確実性及び客観的な予測

以上のように、当時の株式市場は活況を呈していたこと、不動産業界全体が好況であったこと及びコスモス自体の業績も極めて良好であったこと等コスモス株の店頭登録時の株価形成に関係すると思われる諸事情に従前の店頭公開における分売価格形成状況を併せ総合すると、コスモス株の分売株数が過去の分売株数に比べ相当多いという事情を考慮に容れたとしても、店頭登録の約二か月前である昭和六一年九月上、中旬当時の客観的情勢として、店頭登録時の初値が最高分売価格若しくはこれに近い価格で形成されることは確実に予想されたと認められる。

ところで、Aは、判示のとおり、昭和六一年九月上、中旬ころ、本件コスモス株を、被告人丙、同乙、C及びBらに自ら決定した一株三〇〇〇円の価格で譲渡したものであるが、右時点ころ、コスモス及び大和證券においては、昭和六〇年二月及び同年四月にコスモスが第三者割当による新株式の発行を一株二五〇〇円で行った際に類似会社を大京観光、日榮建設工業株式会社としていた経緯もあって、右二社を類似会社として株価の試算をしており、それらの試算によれば最低分売価格は少なくとも約三〇〇〇円との結果が出ていたものと認められ、したがって、最高分売価格は約三九〇〇円となることが明らかとなっていたのであるから、店頭登録時の初値が右三九〇〇円に近い金額になることも確実に予想されたと認められる。なお、昭和六一年九月一六日に、大和證券とAを含むコスモス側との間で開かれた会議において、コスモス側から類似会社を大京観光、三井不動産の二社としたい旨の申し出があり、これにより算定するとこの時点における最低分売価格が約四一六二円、最高分売価格が約五四一〇円となることが明らかとなり、その後、大和證券では、先に認定したとおり、大京観光、三井不動産を類似会社として最低分売価格を決定したものである。

二 Aの認識

Aは、一代でリクルートグループという大企業を育て上げた経済人として、不動産業界の状況も含めた経済情勢に詳しかったことはもとより、株式の公開に関する一般的な知識、特に株を公開すれば、その会社の業績が良好で将来的な成長性が見込まれている限り、株は値上りすることは承知していたものと認められるところ、コスモスでは昭和六〇年二月及び四月に一株二五〇〇円で第三者割当による新株発行をしていたため今回の店頭登録による公開時の株価は右金額を上回る必要があったが、そのための重要な要素の一つである昭和六一年四月期の決算結果は好業績であるとの報告を受けていた。そして、Aは、同年八月中旬ころ、コスモスの幹部社員にコスモス株を持たせるためエターナルフォーチュン株式会社から同株を買い戻す際、コスモスの取締役・財務部長兼経理部長であるDから、右株移動は法人の譲渡で当該法人において税務申告の必要があり、将来その買戻し価格について税務署の調査対象となること、類似会社比準方式によって算定された株価が約三〇〇〇円であること等を聞いた上で、右価格で買い戻すことを決定したが、右のようなDの話しの内容から、Aはコスモス株が店頭登録による公開により値上りすることから税務署の調査対象となるとの理解に立って、税務署に説明できる最低の金額として三〇〇〇円を決めたと認められる。なお、Aは、検察官に対しても、コスモス株が店頭登録により譲渡価格の三〇〇〇円に対して、三五〇〇円から四〇〇〇円に値上りすることは確実であると認識していた旨供述している。以上によれば、前記九月一六日の会議以前の同月上、中旬において、Aは、コスモス株が店頭登録による公開により、少なくとも一株三五〇〇円から四〇〇〇円に値上りすることは確実であると認識していたものと認められる。弁護人のAの公判供述に依拠した右認定に反する主張は到底採用できない(検察官は、Aが、本件譲渡価格を三〇〇〇円としたのは、類似会社を大京観光のほか、業績の下回る日榮建設工業をことさら選定したことの結果であるとの見解に立ち、同人はかねて類似会社として大京観光及び三井不動産の二社を相当と考えており、コスモスの右Dの前任の経理部長であるEも同様に考え、昭和六一年六月当時に株価を試算し、五四〇〇円位になると思うとAに報告していることがEの供述から認められ、したがって、Aもその当時からそのような認識であったと主張する。しかしながら、前記認定のとおり、店頭公開時における株価算定の資料としては、右九月一六日以前に、大京観光及び三井不動産の二社を類似会社として選定することを検討した資料は本件全証拠中には見当たらず、類似会社が右二社とすることが話題になったのは、九月一六日の会議においてコスモス側から申し出たことが契機となったと認められ、このことはその際の大和證券の資料中に類似会社は大京観光と日榮建設工業とすることを前提とした記載になっていることからも明らかであり、右資料においてはじめて類似会社の候補を挙げ、その組合わせによる公開価格の試算をした表が添付されていることに照らして、この会議が類似会社をどの会社にするかについてのA及びコスモスの意向を最終的に確認するためであるとも思われ、そうであるとすると、その時点までにおける類似会社として関係者が予定していたのは大京観光と日榮建設工業と解するのが相当である。検察官の主張に沿うEの供述は、他の関係証拠による具体的な裏付けを欠くもので、その信用性には疑問があり、この供述を論拠にAの認識を肯定する検察官の主張は相当でない。)。

(なお、弁護人は、本件コスモス株は、いずれもAが、株式保有者である株式会社ドゥ・ベスト等から一旦買い戻した上で譲渡したというものではなく、Aは譲渡の斡旋をしたものに過ぎない旨主張する。確かに、本件コスモス株の売買約定書の譲渡人欄の記載が、いずれもAではなく、弁護人主張の会社が記載されていることは明らかであるが、Aは自らの発案で値段を決定した上右会社の代表者らに株の放出方を依頼し、これの承諾を得たものと認められるとともに、自ら選定した多数の者にその買受け方を申し出たものであることも優に認められるから、その法律的な構成はともかく、実質的にみれば自ら買い戻した上、これを譲渡したものと解するのが相当である。)。

三 被告人甲の認識

1(一) 被告人甲は、リクルートやコスモスの財務の仕事を担当していたことがあるほか、コスモスにおいては、経理部長あるいは財務部長として株式公開準備の初期の作業に関わっていたことや昭和六一年八月から九月当時は、同社の行う不動産事業に関連する融資を主要な業務としていたファーストファイナンスの代表取締役社長であり、またコスモスの取締役・財務部長兼経理部長でコスモス株の店頭登録作業の責任者であるDとは親しかったことから、コスモス株が近々店頭登録により公開されること、及び同社の業績が好調であることを認識し、また、当時の経済情勢、とりわけコスモスが業務の中心とするマンション販売について、業界全体が好況であることについても認識していた。

(二) 被告人甲は、昭和六一年八月下旬ころ、Dから、前年四月におけるコスモス株の第三者割当による新株発行の際の発行先であるエターナルフォーチュン社のFへの紹介を依頼され、その際Aの意向で同社からコスモス株を一株三〇〇〇円で買い戻して、コスモスの幹部社員に株を持たせることになったことを聞いた。その後、更にDから、同様発行先の株式会社ドゥ・ベスト、ビッグウェイ株式会社、株式会社三起からも同額で買戻しをする旨のAの意向に基づきその手続をするように依頼され、これを行った。また、ファーストファイナンス社長として、コスモスの幹部社員に対し、当該株券を担保として、購入代金全額を融資する手続にも関与した。

(三) 被告人甲は、これに並行する形で、昭和六一年九月上、中旬ころ、その都度Aの指示で、被告人丙及び同乙らを含む合計一〇名の社外の者に対して、コスモス株の譲渡手続及びファーストファイナンスによる融資の手続を行った。

2 右のような被告人甲のとりわけコスモスにおける地位、Dからの聞知内容、諸手続への関与等に徴すると、具体的にAの説明がなかったとしても、何故店頭登録による公開が間近に迫った時期において、コスモス株を社外の多くの者に譲渡しようとするのか、しかもその代金全額についてファーストファイナンスによる融資を付けるのかについて考えるのが当然であって、それらにつき特段の考えもなかったとする同被告人の公判供述は信用できず、これらのAの指示自体、コスモス株が店頭登録による公開により値上りすることが確実であることを前提としていると考えたものと認められるとともに、同被告人も同内容の意識をもったものと認めるのが相当である。なお、同被告人は、本件株譲渡手続の後において、同年九月三〇日に至っても自己の関与しない未だ多数のコスモス株の譲渡先からの株式売買約定書等の必要書類が揃わず、またその譲渡先がファーストファイナンスの融資を受けるかどうかも確認できない場合に備えて一括してファーストファイナンスから買戻し先のドゥ・ベスト社等数社に対して譲渡代金の振込み手続を予定していたことが認められ、実際にもそのような手続をとったものであるが、このような異常な手続を予定することは、公開時に高い値段が付き前月中に代金の決済をしないと、税務署との関係で将来低廉譲渡の問題が生じることを懸念したからであると推認できる。また、同被告人は、捜査段階においては、昭和六一年九月の時点で、店頭登録による株式公開により、株価が四〇〇〇円くらいにはなり、公開時に値上りすることは確実であると認識していた旨供述している。弁護人は、同被告人はそもそも最高分売価格などということは知らないことなどを内容とする公判供述を根拠として右認識がなかった旨争うが、たとえその点を知悉していなかったとしても、前記のような事情を考慮すれば、その点の不知は右認定を左右することとはならない。

第三入手の困難性及びその認識

コスモス株は、未公開株で、昭和六一年七月二九日のコスモス取締役会において株式取扱規則の改正により株式譲渡制限の規定が撤廃されるまでは、株主数も少なかったこと、前記認定のとおり、コスモス株自体、同年九月上、中旬ころの時点においては、間近に迫った店頭登録により相当値上りすることが確実に見込まれていたこと、実際に同年一〇月三〇日の店頭登録時には、コスモス株の買付申込株式数は分売株式数の約六・七倍に達し分売によってもコスモス株を入手することは困難であったこと等の事実が認められ、そうすると、同年九月上、中旬ころには、Aらリクルート関係者と特別な関係のある者以外の一般人が入手することが極めて困難であったことは明らかであり、このことはAはもとより被告人甲においても認識していたものと認められる。

第二章NTTルート(被告人甲及び被告人乙に対する各日本電信電話株式会社法違反事実)

第一リクルートの回線リセール事業及びRCS事業とNTTの業務との関係

一 回線リセール事業について

1 リクルートによる回線リセール事業の開始

(一) リクルートは、昭和六〇年四月一八日、電気通信事業法二二条一項による一般第二種電気通信事業の届出をし、同社情報システム部を中心として、当初、自社用にNTTから提供を受けた高速デジタル回線による専用回線につき自社使用の余剰分を他社に販売することを企図していた。なお、この事業計画が、同月二三日ころ、「リクルート回線又貸し」という見出しで新聞報道されるや、リクルート側は右事業がNTTに無断で行われるという危惧を抱かせるものと感じ、担当役員と情報システム部長を急遽NTTのCのもとに赴かせて謝罪させたが、同人からは、右事業はビジネスとして可能であると聞いたこともあって、右事業を本格的に展開するための検討を重ね、同年七月三日、日本出版販売株式会社を顧客として、回線リセール事業を開始した。

(二) 情報システム部は、同年七月八日、情報通信システム部として、回線リセール事業を展開する体制とし、同月二九日には、INS事業部に拡大改組し、人員を増やして、回線販売の営業強化を図るとともに、NTTに対しては、同月段階で、東京と大阪、名古屋、京都等との間並びにこれらの都市間について大規模な専用回線の開通の申込みをし、更に、右の様な幹線だけでなく、地方の中核都市についても順次専用回線の開通を申込み、その規模は、同年九月の段階で、東京を拠点として二〇都市、大阪を拠点として一五都市、回線数は七〇と多数にのぼり、全国的な事業展開と目されるに至った。

(三) ところで、回線リセール事業は、NTTの専用回線の使用料金の料金体系が大容量の専用回線ほど割安な料金となっているため、大容量の専用回線をNTTからまとめて仕入れ、これを顧客に細分して使用させれば、顧客がNTTから同容量の専用回線を仕入れる場合と比し、割安な料金を設定できることから事業として成立するもので、回線リセール事業には、回線として、まず、回線リセール拠点(アクセスポイント)相互間を結ぶ高速デジタル回線と顧客の事業所とアクセスポイントを結ぶ専用回線(アクセス回線)が必要であり、設備機器としては、大容量の回線を細分するTDMと呼ばれる装置、デジタル信号とアナログ信号とを相互に変換するモデムと呼ばれる装置等をアクセスポイントに設置する必要があった。

リクルートは、回線リセール事業が、第二種電気通信事業者の届出をし、高速デジタル回線及びアクセス回線の敷設をNTTから受けた上で、TDMやモデム等の設備機器さえ設置すれば、基本的にどの企業でも参入することが可能な事業で、同六一年秋ころからはいわゆる新電電と呼ばれる第一種電気通信事業者がとりあえず大都市間にNTTに比較して料金の安い回線を提供することや、将来このような安い回線の提供を受けて同様の回線リセール事業に参入する業者もあると予想されたことから、そのため早期に全国的なネットワークを構築し、圧倒的なシェアを獲得することを急務としていた。そして、リクルートは、従来通信事業の実績がなく、したがって、技術力も乏しかったものの、このような回線リセールは、NTTの回線を単純に再販売するだけであるから、自社の営業力に期待し、その低価格を売り物にして強力に営業することにより、売上の拡大が十分に可能であるとの判断をしていた。

2 NTTにおけるリクルートネットワークプロジェクトチームの編成

(一) リクルートは、回線リセール事業を全国的に展開するに際して、NTT側の営業窓口であった企業通信システム事業部(以下「企通」という。)長のCに、リクルートの意向を伝え、NTTにおける回線提供等の協力を依頼していた。そこで、Cは、右リクルートの要請に対処するため、同事業部流通サービスシステム部長であったGを責任者とし、同事業部所属の者のほか東京総支社未来通信営業部調査役Hらをメンバーとする「リクルートネットワークプロジェクト」というチームを編成し、昭和六〇年七月中旬ころから、定期的にリクルートの回線リセール担当者と会合を開いて、リクルートの要望を聴取する一方、NTTの対応を伝える等の活動をしていた。

(二) リクルートは、右プロジェクトチームとの会合等を通じ、高速デジタル回線等専用回線の早期開通を要望するとともに、全国のアクセスポイントをリクルートの自社ビルや貸しビルに設置する場合における床面の補強工事、電源や空調の各設置工事等が不要になること及びアクセスポイントへのケーブル敷設用管路確保も不要になることに加え、アクセスポイントに設置するTDMやモデム等の各種装置の保守作業に便利であること等の理由から、NTTの局舎貸与を受けてアクセスポイントを局舎内に置くことを強く要請し、昭和六〇年八月中に、A及びリクルートINS事業本部長I名義のその旨、すなわち早期開通方及び中継機器設置スペース借用方の要望に関する書面を提出するなどしていた。これと並行して、リクルートは、アクセスポイントに設置する各種装置の保守も、NTTに依頼する意向を示していた。また、リクルートは、回線リセール事業に必要な技術者が不足していることから、人材の派遣ができないか打診したりもしていた。

3 リクルートの回線リセール事業に対するNTT内部の姿勢

(一) B及びCの姿勢

(1)  Bは、昭和六〇年八月ころ、Cを通じて、リクルートが回線リセール事業を全国展開しようとしていること、そのためNTT局舎の貸与や各種装置の保守等をNTTに依頼しており、企通としてこれに積極的に対応していることを知り、もともとB自身は、通信の自由化、電電公社の民営化に伴って、NTTのユーザーであり、回線を使って種々の事業をする第二種業者を育てていくことが重要であると考えていたこともあって、Cの方針を積極的に支持する姿勢を示した。そして、Bは、同年九月ころ、Aに会った際にも、「NTTは、これまで長いこと独占でやってきて、その弊害がある。あなた達が回線を売ってくれれば、内部の刺激にもなるし、高速デジタル網の市場が広がる。これからの仕事だからどんどんやって下さい。」という趣旨の発言をするなどした。また、Bは、後記のとおり、当時社内にあった回線リセール業者を敵視しその支援に消極的な考えを改めさせるため、常務会の席等で、積極的にそのような考えが、電電公社時代の古い考えであり、民営化、通信の自由化の流れに沿わない誤ったものであることを強調していた。

(2)  Cも、企通の事業部長として、顧客であるリクルートの回線リセール事業に対しては、それが企通の売上げに直結することにもなり、同様積極的な対応をした。そして、昭和六〇年九月一日付けをもって、リクルートとNTTの間で、リクルートの高速デジタル回線ネットワーク構築に関する技術的な指導及び助言、完成後における保守体制の指導及び助言に関するコンサルティング契約が締結され、この契約書がC及びAとの間で取り交わされた。引き続き、企通は、同月一九日ころ、同事業部主催の全国会議を開き、企通として、各総支社に対し、リクルートの回線リセールの現状、リクルートとNTTが前記コンサルティング契約を締結したこと、リクルートから顧客情報を受けてNTT商品を販売していく計画であること等を通知するとともに、リクルートの回線設備計画を示して、各総支社の設備計画の参考にしてもらいたいこと、併せて局舎貸与の検討方及び保守受託の検討方等の要請を行った。

(二) 企通以外の部署の状況

しかしながら、各総支社をはじめとして、NTTのその他の部署では、専用回線自体NTTが商品として販売するものであって、リクルートの回線リセールが結局NTTの顧客を奪うものであり、小束の回線が売れなくなって収益がなくなるなどとして、リクルートの回線リセールに対してNTTが協力することについて消極的な姿勢が目立ち、その反映として、例えば局舎貸与の問題に関して、競争相手に貸してよいかという意見も出ていた。そこで、Cとしては、リクルートが新規ユーザーを開拓していること等NTTにメリットもあることを指摘し、そのような消極的姿勢の見直しを図るべく努めていた。

4 リクルートの回線リセール事業に関する東京総支社及び被告人乙の対応並びにリクルートの動向

(一) 東京総支社は、リクルートの回線リセールに関し、東京地域における回線設備計画を立て、これに基づき実際の工事を担当する部門を担っていたところ、昭和六〇年八月ころの段階では、リクルートの希望する高速デジタル回線及びアクセス回線の規模がいずれも大きく、真にそれだけの需要が見込めるのか疑問に感じ、過剰な工事は避けたいという空気が、工事を担当する施設部を中心としてあった。しかし、同支社内の営業担当部署であった未来通信営業部は、昭和六〇年九月三日付けをもって、企通と連名でリクルートの回線リセール事業に関し、NTTとして設備提供の準備を行う旨の内部文書を発出し、施設部に対しても、回線設備に関する設備計画の対応を依頼するなどした。また、同年九月三〇日ころには、下部機関の各支社に対し、右回線リセール事業に関する現状と問題点を列記し、東京総支社として、本社及び各総支社と連携し、これに関する設備計画等を確定する必要がある旨を記載した文書を出すなどした。

(二) 被告人乙は、この間にあって、未来通信営業部長であったJ及び同部調査役Hから、リクルートの回線リセール事業に関する東京総支社における回線設備の工事に関する状況、リクルートがNTTの局舎貸与を希望している事実等に関する報告を受け、同人らに対しては、リクルートもNTTの顧客であるから、「できる限りのことはできる範囲でする」ようにとの趣旨の指示をした。また、同被告人は、施設部長Kに対し、リクルートが借用を要望する都心のNTT局舎に希望に見合う空きスペースを有するものが存在するか調査を指示したほか、同施設部長から、リクルートの要望する回線の数が大量でそのまま工事するにはリスクがある旨の報告を受けた際には、その需要に根拠があるのか企通と打ち合わせて対応するよう指示したりもした。

(三) 右のような経緯を経て、施設部が立てた設備計画は、リクルートの希望する規模を押さえたものになったが、霞ケ関局と銀座局の間を結ぶ高速デジタル回線については、経済的な合理性と品質的に問題がないという判断はあったとしても、従来は行っていなかった加入者線用の光ファイバーケーブルを使用することとし、これにより回線の早期開通が可能になった。

(四) 一方、リクルートは、昭和六〇年七月八日ころ、情報通信システム部長Lをして東京総支社長の被告人乙に今後全国展開による回線リセール事業を始めたいのでよろしく願いたいとの挨拶をさせたが、この時点においては、被告人乙は、必ずしも色良い返事はしていなかった。その後、リクルートは、前記のとおり、企通を窓口としてNTTに種々の要望を伝えていたものの、回線の設備計画実施の中心となり、また局舎を管理している東京総支社内に、リクルートの回線リセール事業に対して前向きに対応することに消極的な部署もあることもあってか、回線の早期開通や局舎貸与の件もなかなか具体化しないことを憂慮していた。このような状況下において、Aは、同年九月七日、被告人乙にリクルート全社部次長会における講演を依頼した際、同被告人を料亭で接待し、続いて同月一一日にも同被告人を料亭で接待した。更に、Aは、同年一〇月及び同六一年一月、同被告人をはじめとする東京総支社の幹部数名を都内の料亭で接待した。

5 回線リセール事業についての局舎貸与及び保守に関するNTTの対応

(一) 前記2の(二)記載のとおり、リクルートは、回線リセールに関するTDMやモデムなどの設備機器の保守について、NTTに依頼したいとの意向を、リクルートネットワークプロジェクトを通じて伝えていたところ、NTT内部では、電話企画本部(昭和六〇年八月ころの段階では準備室)が、保守はNTT仕様とされた機器でなければできず、リクルートが他社から購入した機器についての保守は無理との見解であった。これに対し、Cは、保守自体がNTTにとってビジネスになり、またリクルートが購入する機器が米国製であったため、折から国際調達額の拡大がNTTにとっての懸案事項となっていたこともあり、むしろNTTが右機器を米国から購入してNTT仕様とした上で、リクルートに販売すれば国際調達額の拡大に資する上、保守も可能になると考え、この方針を国際調達担当の常務取締役Mを通じてBの了解も得る一方、自らもその委員であるNTTの技術委員会に諮り、同年一〇月一七日にNTT仕様化が決定された。リクルートも、NTTのこの申し出を受け、NTTの保守を受けることを前提として、NTT経由で機器の購入をすることについて了解した。

(二) ところで、NTTにおいては、局舎貸与及びNTTによる機器保守の一般的基準の策定が必要であるとして、建設、保守問題を検討するK・Hプロジェクトチームにより検討がなされた上、その検討結果が常務会へ付議され、昭和六〇年一二月二七日、局舎貸与については、積極的かつ公平に行うこととし、貸付相手にはNTTの回線を使用する第二種電気通信事業者であるリクルートも含むものとし、その貸付権限は、社長から総支社長を初めとする事業本部長に下ろすこととされ、保守については、大口ユーザーであるNTT専用線リセール業者に販売したTDM等の端末設備の設計、工事及び専用線網全体の故障診断業務等を行うこととされた。

(三) 右により、局舎貸与及び保守に関するNTTの方針が決定されたが、保守については、リクルートの望むような全面的な保守体制をとるというものではなく、局舎貸与についても、リクルートに貸与できる局舎の目途は一か所にとどまるものであった。

6 リクルートの回線リセール事業の全国展開

リクルートは、前記のように、早期の全国展開を図っていたが、局舎借受については、直ちには多数の局舎貸与を受けられる見込みがないことから、とりあえず拠点ビルを用意して同所にアクセスポイントを設置することとし、局舎借受は将来における希望とすることにした。そして、当初リクルートが希望した時期よりは遅れたものの、昭和六〇年一一月から同六一年三月ころにかけて、順次東京・札幌間、東京・大阪間、東京・名古屋間、東京・京都間、東京・福岡間、東京・仙台間の幹線の高速デジタル回線が開通し、同年夏ころまでに地方都市の回線についても順次開通した。いずれにしても、これらの回線の開通により、リクルートは、全国的な高速デジタル回線によるネットワークの構築が可能となり、新規事業として全力を傾けた回線リセール事業は、後記認定のとおり、順調に売上げを伸ばすこととなった。

7 保守契約の締結

前記認定のとおり、NTTは、リクルートの回線リセール事業に必要なTDMやモデム等の保守をリクルートから受託することとしたが、昭和六一年三月一八日、リクルートとの間で、エイディーン社製TDM等に関する売買基本契約及び同装置等の保守契約が締結された。

8 NTT社員のリクルートへの再就職

前記のとおり、リクルートでは回線リセールに関する技術力が不足していたため、昭和六〇年秋ころ、一〇〇人ほどの人員の派遣を受けられないかNTTに打診していた。そこで、定年退職者の再就職先を斡旋する任に当たっていた被告人乙は、未来通信営業部長を介するなどしてLと交渉をもち、昭和六一年一、二月ころ、社員の辞職承認に関する決裁をした。この辞職者の中には同営業部所属で前記のとおりリクルートネットワークプロジェクトチームのメンバーHも含まれていたが、同人はリクルートに再就職することとなり、同社はこれを受け入れ同人をして回線リセール事業に関して稼働させた。

9 「R-VAN推進室」の設置及び同行営業

その後、企通は昭和六一年五月九日、全国会議を開催し、各総支社に対し、リクルートの高速デジタル回線ネットワーク構築について概要説明をするとともに、ネットワーク構築に対する意識統一を図り、前記売買基本契約や保守契約の締結についても周知させた。また、企通は、同年七月ころ、今後リクルートの回線リセール事業のアクセスポイントの拡大及び付加価値をつけた事業(いわゆるVAN事業)への進出予定に備えて、窓口の一元化、機動的、弾力的対応体制の整備等を図るべく、R-VAN推進室を設けてリクルート担当の人員を増加し、その旨をリクルートにも通知した。リクルートにおいても、回線リセールの顧客開拓、特にNTTの信用を背景とした営業に力を入れ、Cもしくは企通所属の社員の同行を得るなどして営業活動を行った。

10 瞬断問題

NTTの設置した高速デジタル回線の一部にマイクロウエーブ区間が存在し、それが天候等の影響で瞬断する事故が多発していたことから、Aは、昭和六一年七月ころ、Bに苦情を伝えたところ、同人は関係部署にその旨を伝え、これにより、NTTは緊急の対策を実施した。

11 WATTS

リクルートは、INS事業(情報ネットワーク事業)の新規事業として、昭和六一年七月ころの実施を目指してWATTS(電話の回線交換サービス・広域内線電話)へ進出することとしていたが、右事業がNTTの電話通話料収入に直接影響を与えるため、LからCに右事業開始について打診がなされ、最終的にBの了解を取り付けた。ところで、リクルートは右事業に当たって、その交換機の導入はNTTからではなく、他の会社から行ったが、これに対し、NTTは、企通が中心となって営業活動をした結果、同年一二月ころ、そのシステムの設計、建設、更には機器の保守について受託するとともに、従前はできないとされていた他社仕様の通信機器の建設・保守等も受託できる旨扱いを改め、これを各総支社長に伝えた。

二 RCS事業について

1 リクルートによるRCS事業の開始

リクルートは、昭和六〇年四月ころから、新規事業としてRCS事業(コンピューターの時間貸事業)を始めたが、既存の汎用コンピューターに加え、大規模な科学技術計算に使用するスーパーコンピューターを導入して時間貸することが有望であるとして、機種選定作業に入り、同年九月上旬、米国クレイ・リサーチ社(以下「クレイ社」という。)製のスーパーコンピューターを含む複数の候補の中から、コストパフォーマンスの点のほか、カタログ上当時の世界最高速の機種であったこと、第一号機であったこと等の理由から、富士通製のスーパーコンピューター(VP四〇〇)を選定した。

2 リクルートによるクレイ社製スーパーコンピューター購入の経緯

米国のスーパーコンピューターメーカーであるクレイ社及びその日本法人の日本クレイ社は、リクルートに対して、自社製のスーパーコンピューターの導入を多方面から働きかけてきたが、その一つとしてNTTの国際調達室長のNに依頼し、同人からその伝達を受けたBが、Aにこれを働きかけた。その結果、同人は、自らの判断で急遽、富士通製の前記VP四〇〇に加えて、クレイ社製のスーパーコンピューターをNTTを通じて購入することとした。

Aが、このような決断をしたのは、当時国際調達額の拡大を懸案事項としていたNTTに協力する意図がその主な理由であるが、もともと将来的には、性能が高いと評判のクレイ社製のスーパーコンピューターを導入する考えがあったことに加え、これを早期に導入することによりリクルートのRCS事業の評価が上がり、技術系の人材採用にも資すること、需要も見込めたことから無駄な購入にはならないとの判断もあった。そして、Aは、また、NTT経由で購入すれば、回線リセール事業と同じくリクルートにこの種事業に関する技術をもった人材が不足している矢先、NTTが従前クレイ社製のスーパーコンピューターを導入しその運用に関するノウハウを有し、そのメンテナンス等についての技術支援がNTTから得られる見込みがあるとの思惑もあった。そこで、昭和六〇年九月一二日ころ、Aは、B及びMにNTT経由でクレイ社製スーパーコンピューターを購入することにしたい旨の意向を伝え、Bから、NTTとしてできる限りの協力をする旨の言質を得た。

3 リクルートのクレイ社製スーパーコンピューター購入に関するNTTの対応

(一) リクルートは、前記認定のように、急遽Aの意向で、NTT経由によるクレイ社製スーパーコンピューターの購入を決めたが、その後NTTとの交渉の中で、リクルートの顧客の希望も考慮し、その機種を当初より上位の機種に変更すること、設置場所として、NTT局舎を借り受けること、システム設計はNTTが行うこと等の諸要望を行い、これに対し、NTT内部でデータ通信事業本部(以下「デ本」という。)が中心となって検討し、昭和六一年四月九日開催の常務会において、クレイ社とのスーパーコンピューター購入契約を締結するとの案を了承する議決をした。その際、リクルートの工事設計、局舎の利用等の協力要請に対しても、デ本が対処する旨議決された。そして、同年五月二七日付けをもって、NTTとクレイ社間において、NTTがクレイ社製スーパーコンピューター(X-MP二一六)一式を購入する契約が締結された。

(二) デ本においては、右クレイ社製スーパーコンピューターを設置する局舎としてNTT横浜西ビルを選び、同年夏ころから、設置の建設工事等に着手し、同年一二月九日ころ、右スーパーコンピューターは、クレイ社からNTTに引き渡されたが、これより前の同月三日、NTTはリクルートとの間で、設置工事、調整試験、検収試験、基本ソフトウェアーのインストール等のほか、オンラインシステム構築に関する技術支援をする旨等を定めた「ハードウェア設計建設委託契約」を締結し、併せて局舎の賃貸借契約や電力設備に関する保守契約等も締結した。右契約については、同年六月二六日付けでデ本本部長に就任した被告人乙が、その肩書でNTT代表取締役Bの代理として契約書に記名押印している。

第二本件コスモス株の各譲渡とB、被告人乙及びCの各職務行為との対価性

一 リクルートにおける回線リセール事業及びRCS事業の重要性

Aは、回線リセール事業及びRCS事業については、いずれも新規事業として、その規模の拡大に力を入れ、前記認定のように、組織としてのINS事業部を拡大して、人員も増員したほか、多額の先行投資をした。実際、昭和六一年当時、全体で年間の売上高が約一三〇〇億円、営業利益が約二〇〇億円のリクルートにおいて、この二つの事業の売上高は、昭和六一年度(二六期)には、合計二九億四八〇〇万円であり、全体の売上高の約二・一三パーセントに過ぎなかったのが、両事業が本格化した翌昭和六二年度(二七期)には、合計一四一億五五〇〇万円と急激に増加し、全体の売上高の約七・七パーセントを占めるに至った。また、その売上原価(売上げに要する費用)も、昭和六一年度で合計七九億三九八六万円で全体の売上原価の約一一・五パーセントであったのが、翌六二年度には推定で約三〇〇億円で全体の売上原価の約三六パーセントと同じく急激に増加しており、したがって、収支も当然赤字であった。このように、回線リセール事業及びRCS事業は、いずれもリクルートが全社をあげてその規模の拡大に力を注いでいたものと認められ、その将来の成功を図ることは極めて重大事であったことは明らかである。

二 リクルートの回線リセール事業及びRCS事業に関するNTTへの期待等

前記認定のように、回線リセール事業は、そもそもNTTが敷設する高速デジタル回線を使用することによって成り立つ事業であって、その事業の成否は、まさにNTTの高速デジタル回線の品質にかかるものであることはもちろん、NTTの専用回線の価格体系如何にもかかるものであった。また、資金力さえあれば、誰にでも参入が容易である事業であった上、リクルートが回線リセール事業を本格的に展開し始めた昭和六〇年七月には、すでに翌六一年秋から、いわゆる新電電等と呼ばれたNTTに対抗する第一種電気通信事業者が、大都市間に自前の回線を敷設してNTTよりも安い値段で回線を提供することが見込まれていたことから、リクルートの回線リセール事業は、これらの新規通信事業者とも将来的には競合することが予測され、リクルートとしては、早期に自らの事業を全国展開して顧客を拡大し、圧倒的なシェアを確保し、それによる価格競争力をもつ必要性が大きかった。また、リクルートは、回線リセール事業を展開するに当たっての技術は未だ未熟であって、技術者も不足しており、通信業者としての評価も定まっていなかったことから、顧客の開拓には、回線の使用料が低額であることに加えて、NTTの技術的な信用力が背景にあることを積極的に訴えることが必要であった。以上のように、リクルートは、回線リセール事業の発展のため、NTTによる支援と協力を必要としていたと認められる。

RCS事業に関しても、リクルートがクレイ社製のスーパーコンピューターをNTT経由で導入したのは、直接的にはNTTが国際調達を迫られていたことに協力する意図で、Aが急遽決断したものではあるが、そうだからといって、必要のないものを購入したわけではなく、将来的には、右スーパーコンピューターをRCS事業の中心とし、需要も見込めることを考慮して購入したものであって、実際に、リクルートにとっても、NTT経由で購入することにより、右スーパーコンピューターを利用する見込みがあったリクルートの顧客の望みどおりNTT局舎内に設置することができ、既に同社製のスーパーコンピューターを導入していたNTTの運用及びメンテナンスのノウハウに関する技術支援を得られることが見込めるなどの利益があったと認められる。

三 B、被告人乙及びCの職務行為

1 Bの具体的な職務行為

(一)(1)  Bは、前記認定のとおり、Cを通じてリクルートが回線リセール事業に進出しようとしていること等を知り、これに対して積極的に対応しようとする企通の姿勢を支持し、Aにも、リクルートの回線リセールを支持する姿勢を表明した上、社内におけるリクルート等の回線リセール業者を敵視する考えを排すことに腐心した。

(2)  Bは、リクルートが回線リセールに使用する予定の米国製のTDMやモデム等の機器について、NTT仕様として、自社経由でリクルートに販売することを了承するとともに、昭和六〇年一二月二七日のNTT常務会において決定された局舎貸与及び保守に関する事項につき自らも賛意を表明し、のみならず、席上、リクルートが望む回線の末端から末端などの通しの品質保証・保守を可能にし、かつ保守対象機器を限定しないこととする点につき、その様な方向での再検討を指示した。

(3)  右常務会の議決を受け、昭和六一年三月一八日、Bは、リクルート代表取締役Aとの間で、TDMなどの売買基本契約及び保守契約を締結した。

(4)  また、昭和六一年七月ころ発生した回線の瞬断事故に対し、緊急の対策がとられたが、これがBの関係部署に対する働き掛けによることが認められる上、リクルートが進出を予定していたWATTSの事業に対しても積極的に対応するように指示したと認められる。

(5)  リクルートのRCS事業のためのクレイ社製スーパーコンピューター購入に関しても、Bは、Aに対し、NTTとしてできる限りの協力をする旨の意向を伝え、リクルートの諸要望に応えるべく、常務会を開催し、これに沿う議決に及んだ。

(二) 以上のように、Bの行為は、そのいずれもが、特にリクルートのみに特別な利益を与えるというものではなく、また不正なものでもないことは明らかであるが、それ自体はリクルートの回線リセール事業及びRCS事業の展開にとって、客観的に有利なあるいは利益となる具体的な職務行為と認めることができる。

2 被告人乙の具体的な職務行為

(一)(1)  被告人乙は、前記認定のとおり、東京総支社長として、同支社未来通信営業部長らの報告を受けるなどして、リクルートの要望等について了知した上、同部長らに対し、NTTとしての対応を指示し、その結果、リクルートの要望を全てに亘って満たすものではなかったものの、例えば局間中継線に加入者線用ケーブルを使用することとしたなど、これにより回線の早期開通が可能となった。

(2)  また、被告人乙は、東京総支社に勤務し、職務上リクルートと接点のあったHが同社に再就職することとなった件につき、未来通信営業部長の報告を受けるなどして、人事権者として決裁をしていることに鑑みると、同被告人はHのリクルートへの再就職に寄与したものと解するのが相当であって、それは、NTTにとって再就職先の確保という意味もあったが、リクルートにとっても、回線リセール事業の展開にとって有利なものであったと認められる。

(3)  被告人乙は、昭和六一年六月二六日付けで、デ本本部長に就任したが、その際に、副事業本部長らからリクルートがNTT経由でクレイ社製スーパーコンピューターを購入すること、デ本が右スーパーコンピューターの設置に関する工事設計を担当し、またこれを設置するためにNTTの局舎を貸与する方針であること等の報告を受け、これを了として同年夏ころには右設置工事に着手することを容認していたところ、同年一二月に、ハードウェア設計建設委託契約をデ本本部長の肩書で代表取締役代理として締結した。

(二) 以上のように、被告人乙が、東京総支社長として、あるいはデ本本部長として行ったこれらの各職務行為は、客観的にはリクルートの回線リセール事業及びRCS事業に関し、有利なあるいは利益となるものであると認められる。

3 Cの具体的な職務行為

(一)(1)  Cは、前記認定のとおり、企通の事業部長として、リクルートの回線リセール事業に関し、リクルートネットワークプロジェクトを設置して、リクルートの回線の早期開通、局舎貸与及び各種機器の保守などの要望に対して前向きに検討させ、昭和六〇年九月一日には、リクルートとの間で、回線リセールに関する技術的な指導及び助言に関するコンサルティング契約を締結し、また、企通主催の全国会議を開いて、各総支社に回線の早期開通、局舎貸与及び保守の検討をするように要望するなどして、リクルートの回線リセール事業を積極的に支援、協力した。

(2)  Cは、TDMやモデムなどの機器の保守に関しても、NTTの国際調達に資するという点に着目しつつ、これらの米国製機器をNTT仕様とすることを図り、リクルートの要望するNTTによる保守を可能にし、昭和六一年三月一八日、リクルートとの間で保守契約が締結されることとなった。

(3)  その後も、Cは、企通内にR-VAN推進室を設置して、リクルート関連の営業強化を図り、その人員も増加させた上、C自身、AやLに同行して、リクルートの営業に協力した。

(二) 以上のように、Cにとって、もともとリクルートが企通の大口の顧客である上に、NTTの専用回線を大量に仕入れて回線リセール事業に進出することは、企通の売上げ増大に繋がるものであり、リクルートの回線リセール事業に前向きに対応することは、同人の職務として当然のことともいえ、また同人のした前記各職務行為が特に不正であるとかリクルートのみに好意的な取り計らいとなるということもできないが、その行為自体は客観的にはリクルートの回線リセール事業の展開に有利なあるいは利益となる具体的な職務行為と認めることができる。

四 AのB、被告人乙及びCのリクルートの回線リセール事業及びRCS事業との係わりに関する認識状況

1 Aは、昭和六〇年及び同六一年当時、右認定のとおり、リクルートの新規事業である回線リセール事業及びRCS事業を重視し、その発展にはいずれもNTTの支援及び協力が必要であると考えていたところ、NTT内部において、Bが、代表取締役社長として、社内において強い影響力をもち、特に電電公社の民営化、通信の自由化という大きな状況の変化に際し、従前の独占体質に慣れた社内の改革を強力に進めており、それ故にリクルートの回線リセール事業についても理解を示しているということも認識していたことから、いうまでもなくBをNTT内部における重要人物とみなしていたことが認められる。

2 同じく、Aは、被告人乙についても、同被告人が東京総支社長としてその事業を統括する同総支社が、リクルートの回線リセール事業の中心となる東京地域における回線設備の計画や工事を実際に担当する部門であって、回線リセール事業が、それなりに早期展開できたことについて同総支社が果たした役割を重視し、また、その後昭和六一年六月には、同被告人がデ本本部長に就任したが、当時、リクルートがクレイ社製のスーパーコンピューターをNTT経由で購入し、デ本に、その設置工事及びこれを収容する局舎貸与等を依頼していたことから、RCS事業に関しても、引き続きデ本の協力を必要としており、いずれの意味でも、被告人乙をNTT内部における重要人物とみなしていたと認めるのが相当である。

3 右同様、Aは、Cについても、NTTにおけるリクルートの事業の営業窓口であった企通の事業部長として、リクルートの回線リセール事業の全国的な展開、その後のVAN事業への進出まで、その当初からリクルートと種々の接触を重ね、企通内部はもちろん、NTTの他部署へリクルートの要望等を伝えて回線の早期敷設などに尽力してもらわなけばならない重要人物とみなしていたと認めるのが相当である。

第三本件コスモス株のB、被告人乙及びCへの各譲渡の趣旨

一 各人のコスモス株譲受け状況

1 Bについて

(一) 昭和六一年九月上、中旬ころ、Aは、Bに電話して、コスモス株譲渡の話しを持ちかけたところ、Bは、そういう話しは秘書のOにするように述べたことから、改めてOに対し、コスモス株を引き受けて貰いたいこと及び使いの者を派遣することを伝え、被告人甲に指示してOを訪ねさせ、同被告人はコスモス株一万株の譲渡について、ファーストファイナンスによる全額融資が可能であることを話し、株式の売買約定書等必要書類を提示した。Bは、Oから報告を受け、この話しは、店頭登録による公開後には右コスモス株を売却してよいことを前提としていると了解した上で、この申し出を承諾し、O名義でコスモス株一万株を引き受け、その代金は全額ファーストファイナンスからの融資を受けて支払うこととすることを指示し、これを受けたOが右必要書類に署名・押印した。

(二) その後、同月三〇日、ファーストファイナンスからB(名義はO)に対して、右コスモス株の代金三〇〇〇万円が融資されるとともに、右融資金は、ファーストファイナンスから所有名義人三起の口座に振込まれ、これによって、Bは、O名義で右コスモス株一万株を取得した。

2 被告人乙について

(一) 昭和六一年九月上、中旬ころ、Aは、リクルートの本社ビルにおいて、被告人乙に対し、コスモス株譲渡の話しを持ちかけ、具体的なことは被告人甲から聞くよう申し出、その後、Aから指示を受けた被告人甲は、被告人乙を訪ね、株式売買約定書等の書面を提示するとともに、前同様の説明をした。被告人乙は、その説明を聞き、右書類をいったん自宅に持ち帰った上、右コスモス株一万株を引き受け、その代金は全額ファーストファイナンスからの融資を受けて支払うことにして、右必要書類に署名・押印した。

(二) その後、同月三〇日、ファーストファイナンスから被告人乙に対して、右コスモス株の代金三〇〇〇万円が融資されるとともに、右融資金は、所有名義人ドゥ・ベストの口座に振込まれ、これによって、被告人乙は、右コスモス株一万株を取得した。

3 Cについて

(一) 昭和六一年九月上、中旬ころ、Aは、Cに電話をし、コスモス株譲渡の話しを持ちかけ、具体的なことは被告人甲に説明させる旨申し出、その後、Aの指示を受けた被告人甲は、Cを訪ね、株式売買約定書等の書面を提示するとともに、前同様の説明をした。Cは、右コスモス株が間もなく店頭登録により公開されることを了知した上で、右コスモス株五〇〇〇株を引き受け、その代金は全額ファーストファイナンスからの融資を受けて支払うことにして、右必要書類に署名・押印した。

(二) その後、同月三〇日、ファーストファイナンスからCに対して、コスモス株の代金一五〇〇万円が融資されるとともに、右融資金は、前記ドゥ・ベストの口座に振込まれ、これによって、Cは、右コスモス株五〇〇〇株を取得した。

二 Aのコスモス株各譲渡の趣旨

Aが社外の者にコスモス株を譲渡するに際して、NTT幹部であるB、被告人乙及びCを選定した昭和六一年九月ころは、回線リセール事業に関して、リクルートは全国的な高速デジタル回線ネットワーク構築を終え、新たにWATTSなどのVAN事業への進出を図り、また新電電の営業も開始される時期であり、RCS事業についても、NTT経由で調達したクレイ社製のスーパーコンピューターのNTT局舎への設置工事が進んでいた時期であって、いずれにしても、前記第二の二において認定したNTTの支援と協力が必要な状況には何ら変化がなかった。また、Aは、前記第二の三において認定したB、被告人乙及びCの各職務行為に関し、その全てについて具体的に認識していたものとは認められないが、Bが社長としてリクルートの回線リセール事業やRCS事業に関して理解があり、NTT内に存するリクルート支援に消極的な意見を排除しようとする姿勢であって、そのことが回線の早期開通や局舎貸与の実現に大きな影響力を有していることは、Bとの面談の結果、あるいは自ら実際にその影響力の行使を期待して回線の瞬断問題に関して直接働きかけていること等から、充分にこれを認識していたものと認められる。また、Aは、被告人乙の東京総支社長及びデ本本部長という地位並びに同被告人との再三にわたる接触の事実に照らして、同被告人が高速デジタル回線やアクセス回線の設備工事、局舎貸与に関する包括的な指示をする関係にあること及びクレイ社製のスーパーコンピューターの設置工事や今後の運用についても包括的な指示をする立場にあることを認識していたことは優に認められる。同じく、Aは、Cに関しても、同人が企通の事業部長として、NTTの営業の窓口を担当し、リクルートと直接交渉し、同社の回線リセール事業に関してNTT内において積極的にリクルートへの支援と協力を図っていたことについては充分に認識していたことは明らかである。このような状況の下、Aは、コスモス株が譲渡直後の六一年一〇月末に店頭公開されて値上りが確実であること及びAらリクルート関係者以外の者にとっては入手が困難であることを認識しながら、B、被告人乙及びCへ譲渡したものであり、後記各認定のとおり、Aと右三名との間には、いずれも仕事を離れた特別かつ密接な個人的交際はないことをも併せ考慮すると、Aは、右三名に対し、いずれもその職務に関する対価、すなわちわいろとして右コスモス株を譲渡し、その利益を取得させようとしたものと認定できる。

三 Bの認識

Bは、Aから直接若しくはOを通じて、コスモス株譲渡の具体的な話しを聞き、これの譲受けを決意した段階においては、コスモス株が間もなく店頭公開され、値上りが確実であること及びAらリクルート関係者以外の一般人にとっては入手が困難であることを認識し、更にその譲受けに関し、その代金も全額ファーストファイナンスの融資を得られ、店頭公開後値が付いたら売却してもよいと言われたことから、右譲渡の働きかけは、実際には現金等を支出することなく、短期間で値上りした株を売却して融資に関する利息等を控除した儲けが得られるもので、結局現金をもらうのと同じと考え、Oに対して、「危ないぞ。裏金だぞ。」と、売却代金をB個人の口座には入れないよう指示した。また、その引受け名義も、Bではなく、O名義にした。Bは、当時、財界人の若手が集まってBを囲む会を開いていた際のメンバーにAが入っていたものの、特に同人とは仕事を離れた個人的な関係はなかった。その一方で、リクルートは、NTTの高速デジタル回線の提供を受けて回線リセール事業に乗り出し、全国規模で大々的に展開していたが、Bは、NTTの協力なしには通信の素人であるリクルートが、このような展開はできなかったと認識しており、またクレイ社製のスーパーコンピューターもNTTの調達、建設、メンテナンス等の協力を必要としていたと認識していた上、前記第二の三の1に認定した各種の職務行為をし、その意味するところも当然認識していたのであるから、コスモス株譲渡は、これまで世話になった謝礼と今後ともNTTの協力を願いたいという気持ちで持ち込んできたものであると考えたと認められ、したがって、これが自らの職務に関する対価、すなわちわいろであることを認識したことは明らかである。

四 被告人乙の認識

1 株の利益性に関する認識

被告人乙は、Aからコスモス株譲渡の話しを持ちかけられてこれの譲受けを決意した際、Aあるいは被告人甲から、コスモス株が近々店頭公開されることを聞いたかという点に関して捜査段階から一貫して否定する供述をしているところ、Aは、捜査段階において、「今度リクルートコスモスが店頭登録で株式を公開することになりました」と話した旨供述しており、また公判廷においても、明確な記憶ではないものの、コスモス株の公開の話しをしたと思っている。被告人乙が聞いていないというのであれば、、していないかもしれないとの認識である旨供述している。ところで、被告人乙は、本件以前に未公開株の取引をした経験があって、株式取引に関する知識を有していることに徴して、株式に関する関心はあったと認められる上、本件コスモス株の譲渡代金は、合計三〇〇〇万円と高額であり、ファーストファイナンスの融資の利率は年七パーセントで返済期限はとりあえず一年後ということであるから、当然その間の利息も軽視できず、Aが自らコスモス株の譲渡を申し出ている以上、なお経済的なメリットがあると考えるのが自然であること等に鑑みると、被告人乙が、少なくとも近い将来にコスモス株が公開され、それにより株価が値上りするのは確実と当時考えたものと認めるのが相当である。そして、そうである以上、そのような株をAらリクルート関係者以外の一般人が入手することは困難であるとの認識も有したものと認めるのが相当である。

2 職務との対価性に関する認識

被告人乙は、Aとは、とりわけ、昭和五七年ころから、ザ・フォーラムと呼ばれる会員制の集まりの中で、年に数回同人と顔を合わせて話しをしたりするなどの交際をしていたものの、それ以上特に親密な交際はなかったことが認められ、また、本件コスモス株譲渡の際に、Aから、当時自己がプライベートな問題でNTTを辞めざるを得なくなるかもしれないといううわさ話しについて問い質された経緯はあるが、いずれにしても、被告人乙としては、Aがこのような利益を右のような交際状況のみを理由として自己に与えようとしていると考えたり、リクルートへの再就職のための支度金あるいはプライベートな問題解決のための資金としてのみ与えようとしていると考えたりすることは極めて不自然であると解さざるを得ない。他方、被告人乙は、前記第二の三の2認定の自らもリクルートの回線リセール事業及びRCS事業について職務行為を行っているという事実をつとに承知し、これがリクルートに対する有利な若しくは利益となる事柄に係るものであることも理解していたものと認められるから、本件コスモス株の譲渡が、これらの職務行為と対価性を有するものであると認識したものと認めるのが相当である。

五 Cの認識

Cは、A及び被告人甲の説明から、本件コスモス株が店頭公開により値上りの利益が得られること、また右コスモス株がAらリクルート関係者以外の一般人にとって入手が困難であることについては優に認識したものと認められる。そして、Cは、Aと特に個人的に親しい関係にはなく、ほとんどが仕事上の付き合いであったのであるから、本件コスモス株譲渡の申し出が、個人的な交際によるものであるなどと到底考えられず、リクルートの回線リセール事業に関して、前記第二の三の3のとおりの自己の行った各種の職務行為がリクルートの回線リセール事業の展開に資するものであることは優に認識していたのであり、本件コスモス株の譲渡が、これらの職務行為と対価性を有するものであることを認識していたというべきである。

第四弁護人の主張について

一 対価行為たる職務行為は限定して解釈すべきであるとの主張について

弁護人は、NTTの民営化によりNTT職員は公務員ではなくなったこと、日本電信電話株式会社法上、公平な提供の対象としては、電話の役務のみが規定されていること等から、公務でなく、かつ公益性の減少した業務を行うNTTの職員に対して収賄罪に関する規定を解釈するに当たっては、一般の公務員に対する場合に比し、職務行為の対価性の認定はより厳格かつ慎重になすべきであり、依頼のない職務行為や報告されていない職務行為、あるいは有利な結果が出ていない職務行為については、原則として対価関係を認めないこととすべきである旨主張する。しかしながら、日本電信電話株式会社法一八条一項の規定は、「職務に関して」わいろを収受すること等をその構成要件としているのみで、かえって、同項には、わいろを収受等して不正の行為をするなどした場合における加重処罰規定が設けられていることに照らしても、文理上弁護人が主張するような、刑法上のわいろ罪の規定とその対価性に関して解釈を異にすべき根拠はない。そして、日本電信電話株式会社法は事業計画の策定及び変更、役員の任免等につき郵政大臣の認可を受けなければならないなどと規定し、NTTが通信の自由化によりその業務に関し独占することはなくなったとしても、なお通信事業に関して巨大な規模を有する実態等に鑑みると、同法は職員の職務行為全般にわたり公益性が強いと認めていると考えられるから、わいろ罪の罰則規定を制定したものと解するのが相当である。実質的にみても、職務行為の対価性の要件を刑法上のわいろ罪より厳格に解釈すべき理由はないものと認められる。弁護人の主張は理由がない。

二 双務契約上の履行行為を対価性のある職務行為と捉えるのは不当であるとの主張について

弁護人は、本件で問題となる被告人乙らの職務行為は、いずれもNTTとリクルートとの双務契約上の履行行為であるに過ぎず、NTTに契約上履行義務がある以上、これをすることは当然のことであるから、これをもって対価性のある職務行為と捉えるのは不当である旨主張する。しかしながら、日本電信電話株式会社法一八条一項にいう「職務」を双務契約上の履行行為と然らざるものとに峻別して解釈することはそれ自体無理があるといわざるを得ず、たとえ双務契約上の履行行為であって、贈賄者からみればその履行を受けるのが当然ともいえる場合であっても、なお贈賄者がこれに対する対価行為としてわいろを供与することは有り得ることであり、これを許容することはとりも直さずNTTの公益性を害することとなり、したがって、双務契約上の履行行為を対価性のある職務行為として捉えるのが不当であるとは到底いえない。弁護人の主張は理由がない。

三 免訴の判決を求める旨の主張について

弁護人は、本件公訴事実中、RCS事業に関する職務行為については、本件後、NTTのデータ通信事業部門が、NTTから分離して独立した結果、その後は右独立した会社の役職員が同様の行為をしたとしても、日本電信電話株式会社法一八条一項のわいろ罪の適用を受けないことになったのであるから、これは刑事訴訟法三三七条二号に規定する犯罪後の法令により刑が廃止された場合に該るとし、この部分に関して免訴の判決を求める旨主張する。しかしながら、この主張は一個の訴因の一部に関するものであって主張自体失当というべきであるが、主張に鑑み、検討するに、NTTのデータ通信事業部門がNTTから分離して独立した会社になったこと、したがって、独立後は右会社の役職員について日本電信電話株式会社法一八条一項のわいろ罪の適用がないことについては弁護人主張のとおりであるものの、この間において右法条の主体には何ら変更がないから、同法条の構成要件上、NTTのデータ通信事業部門の行為について、これをわいろ罪の適用から除外する趣旨の改正があったものと解することはできず、ただ分離独立という事実から適用がない結果になっただけであり、このような場合については、犯罪後の法令により刑が廃止された場合には該らないと解するのが相当である。弁護人の主張は理由がない。

第三章文部省ルート(被告人甲の贈賄及び被告人丙の収賄事実)

第一リクルートと文部省との関わり

一 リクルートの進学情報誌事業と文部省の関わり

1 リクルートの進学情報誌事業

(一) リクルートにおける進学情報誌事業の創業及びその成長の経緯

リクルートは、もともと大学卒業予定者に、企業案内の広告情報誌を無料で配付する事業を中心に発展し、その後その配付対象を高校卒業予定者にも拡大するなどしてきたが、昭和四五年九月、これと同様に、私立の大学、短大、専修学校等から掲載料を得て進学希望の高校生向けの生徒募集広告等の情報を掲載する進学情報誌として「リクルート進学ブック」を発行し、進学希望者に無料で配本する事業を開始し、これを教育機関広報事業と称して、同年一二月には、右事業を担当する部署として教育機関広報事業部を創設した。リクルート進学ブックは、高校生が大学等に資料を請求するための「フィードバック葉書」と呼ばれる資料請求用葉書を付けて広告効果を測定できるようにしたこと、広告の対象を、大学のみならず、専修学校、各種学校等に広げたことから、進学者が年々延びたことと相俟って、その発行部数も延び、売上げも増大していった。特に、同五一年に専修学校が学校教育法の改正により制度化されたこともあって、専修学校、各種学校等の広告受注が順調に増え、同五四年ころからは「スペシャリスト編」(その後「ザ・スペシャリスト」と名称変更)という専修学校等を専門とする進学情報誌を発行するようになり、広告受注高も、昭和六一年度においては、全受注高の七五・七パーセントに及ぶに至った(これに対し大学及び短大の受注高は一九・五パーセントに過ぎなかった。)。

(二) 教育機関広報事業部門の組織

進学情報誌の配本は、従前は他の情報誌とともに事業部が担当していたが、昭和五七年一一月に進路情報部が新たに設立されて同部がこれを担当することとなり、以降教育機関広報事業部と一体として活動するようになり、昭和六〇年当時、教育機関広報事業部門は、営業、すなわち大学や専修学校等からの広告受注を担当する教育機関広報部(東日本と西日本に別れていた。)、受注した広告掲載の企画、編集を担当する教育機関広報製作部及び進学情報誌の各高校生等への配本、各高校等への渉外活動を担当する進路情報部に分れていた。

(三) 教育機関広報事業の事業規模

教育機関広報事業の売上高は、創業した昭和四六年度は約一億円であったが、同五五年度には約六一億円、同五八年度には約一二一億円、同六〇年度には約一四八億円と順調に成長し、その売上規模は広告事業部門、住宅情報事業部門に次ぐ第三の規模を占め、同五八年度には、全体の売上高の一二・一パーセント、同六〇年度には約一一・三パーセントを占めていた。

また、リクルートの進学情報誌事業と競合する会社も数社あったものの、その売上においてもシェアにおいても他を圧倒していた。

(四) 進学情報誌の売上増大と宅配の関係

(1)  教育機関広報事業部門においては、従来、進学情報誌を高等学校に配送して、教師の協力を得るなどして学校内で生徒に配っていた(「学配」方式)が、昭和五四年ころから、各高校の進路指導担当教諭の協力を得て、各高校生(二年生)を対象に希望する進路、氏名、住所等を記載してもらう進路希望アンケート調査を実施し、その回答を得て(この回答を「高校生リスト」、若しくは「リスト」と称していた。)、これに基づいて、希望進路に沿った進学情報誌を各高校生の自宅に直接配達するいわゆる「宅配」方式による配本を始めた。宅配方式は、学校側の配本に関する負担及び生徒の持ち帰り負担を軽減するという目的もあったものの、リクルートが発行する各種進学情報誌のうち、高校生の希望する進学先に沿ったものを確実に届けることを可能にし、これにより配本効果を高めることを目指したものであった。

教育機関広報事業部門(特に断らない限り「進路情報部」を含む。以下同じ。)では、昭和五八、九年ころから、その成長率が鈍化してきたため、第二期高度成長期との呼び声の下に、高校生リスト一〇〇万人分収集を目標に掲げて宅配比率を上げることを図るとともに、広告主である専修学校等に対しては、広告掲載料金を値上げする一方で、広告募集担当社員をして広告効果が高いことを強調させていた。その結果、昭和六〇年度において、リクルートは、リスト収集対象の昭和六二年三月卒業予定の全国の高校生約一六七万人のうち、その七二・四パーセントに当たる約一二一万人分の高校生リストを収集し、高校生向け進学情報誌の全配本部数の六三・六パーセントに当たる約一八五万部を宅配した。右により明らかなとおり、リクルートは、高校生リスト収集に力を入れ、一〇〇万人を超える進路希望に関する高校生リストを保有し、進路希望先に沿った進学情報誌を直接その数に見合う高校生の自宅に配付することを可能とし、この事実がリクルートの教育機関広報事業部門にとって競業他社との差別化を図ることとなり、専修学校等の広告掲載を得るための強みとなっていたと認められる。

(2)  弁護人は、昭和六〇年以降、教育機関広報事業部門においては、宅配に対する見直しの意見が出ており、進学情報誌の配本方法として以前のように重視すべきものとは認識されない状況となり、他方教育機関広報事業の売上が増加したのは、その進学情報誌の内容が競業他社のものに比べて内容が優れていると教師、生徒らに評価されていたことに加えて、高校生の絶対数が増加し、その受け皿である大学、専修学校の数が増えていたこと等によるものであり、単に宅配の採用のみが原因だったとはいえず、現に、平成元年以降、高校生リスト収集とそれによる宅配を中止したが、それにもかかわらず売上を伸ばしており、そのことからも、宅配が進学情報誌事業にとって不可欠とはいえないものであったことは明らかである旨主張する。

確かに、昭和六〇年六月に、教育機関広報事業部企画室企画課が、部員に対して実施した「二六期商品に関するアンケートのお願い」に対する回答(甲物一一〇)中には、リスト収集効果等についての疑問を指摘するものがあることは、弁護人の主張のとおりであるが、これは単に数名の疑問に過ぎず、教育機関広報事業部として宅配及び高校生リスト収集に力を入れていたことは、昭和六一年一〇月の進路情報部のリスト収集戦略会議においても、効果の高い配本を行うためには、リストの精度を高めていかなければならない旨の方針が部長より伝えられるとともに、リストは進路情報誌配本の根幹である旨の説明もされていることにより明らかであって(甲書四九三・リスト収集戦略会議議事録)、この議事内容は従前の戦略を維持継続する旨を確認したものと解され、平成元年以降の状況が弁護人主張のとおりだとしても、昭和六〇年当時における宅配の重要性は(1) のとおりと認定できる。

2 「高校リレーション」

前記認定のとおり、教育機関広報事業部門においては宅配に力を入れていたが、高校生リストを継続的に収集するためには、各高校生に進路希望アンケートに答えてもらう必要があり、そのためにも各高校の進路指導担当の教師による継続的な協力を得ることが重視されていた。リクルートでは、従来から、事業と関係のある相手方との良好な関係を築き、事業遂行に必要な支援や協力を求めるとともに有益な情報を入手する活動を「リレーション」と称していたところ、右の活動の一環として、特に進路情報部では、「高校リレーション」と称し、各高校の進路指導担当の教師、全国高等学校進路指導協議会(「全高進」と略称されていた。)、校長会等の高等学校関係団体等との良好な関係を築くことを重視し、進路情報部員が高等学校を頻繁に訪問したり、進路指導担当の教師にリクルート発行の「キャリアガイダンス」との名称の進路指導担当教諭向けの情報誌を無料で配付したり、全高進やそのブロック組織である関東地区高等学校進路指導協議会(「関高進」と略称されていた。)等に対して、賛助金を拠出し、大会等の会議場所の無償提供をするなどの協力をしていた。

3 「文部省リレーション」

(一) リクルートは、右のほか、特に文部省リレーションに力を入れていたが、その具体的な活動として主要なものを列記すると、A及び教育機関広報事業担当取締役らによる昭和五九年三月の料亭における被告人丙らに対する飲食接待、同じく同年一〇月の同被告人らに対するゴルフ接待、昭和六〇年九月の右取締役及び専務取締役らによる同被告人らに対するゴルフ接待、昭和六一年八月の料亭におけるAらによる同被告人の事務次官就任祝い接待等を行ったほか、進路情報部次長による初中局長室への出入り、並びに同次長らによる同局職業教育課長及び同課進路指導担当教科調査官に対する再三にわたる飲食接待等をした。

(二) 弁護人は、とりわけ、進路情報部員と文部省関係者との接触は、進路指導の専門家から情報や意見を聞いたり、リクルート主催の講演会やシンポジウムの講師を依頼するなどの関係から出たもので、後に述べる進学情報誌事業に影響を与えることとなるような文部省の動向を懸念していたからではないなどと主張する。しかし、接待等の費用はいずれもリクルートの負担であることが明らかである上、昭和五八年二月ころに発刊された二二期事業部・進路情報部アニュアルレポートやその後の発刊に係る同種のアニュアルレポートにおける文部省のリレーション対象者の拡大と情報収集との記載等に照らして、同省関係者との接触が進学情報誌事業の円滑な遂行を意図したことによるものと認めるのが相当である。

4 リクルートの進学情報誌に対する批判

リクルートの進学情報誌については、以下のような批判があった。

(一) 一部の進路指導担当の教師は、その広告の内容に真実と異なった誇大なものが見られること、また専修学校や各種学校と並んで認可を得ていない教育機関(無認可校)も記載されているため、生徒にはその区別がつきにくいこと等を挙げてつとに批判していたが、とりわけ宅配については、生徒に進路希望のアンケートに答えさせている点高等学校がリクルートの営業に力を貸しているのではないかという批判、あるいは高校生のプライバシー保護の観点で問題があるほか適正な進路指導の上で問題があるのではないかという批判をしていた。このような批判は、教師だけではなく、昭和五八年三月には週刊文春にリクルートの進学情報誌の内容及び宅配のための高校生リスト収集についての批判の記事が掲載され(甲物四二)、業界紙である専門学校新聞にも同五七年から五八年にかけて右と同様の批判の記事が掲載された(甲物四三)。同様、同五七年九月に発行された「徹底取材・「選ぶ」までのチェックポイント」と題する書籍(甲物三一七)及び昭和五九年一月に発行された「ダメな専門学校採点」と題する書籍(甲物一二四)にも、進学情報誌一般あるいはリクルートの進学情報誌を特定しての批判がなされた。その他、同様の批判は、財団法人東京都専修学校各種学校協会所属の専門学校進学指導研究会による昭和五八年夏期宿泊研究協議会の「研究集録」(甲物四四)や文部省高等教育局私学行政課監修にかかる財団法人専修学校教育振興会発行の昭和六〇年版「全国専修学校総覧」(甲物三〇三)にも掲載された。

(二) 昭和六〇年三月七日、衆議院予算委員会第三分科会において、斎藤実議員から、生徒には進学情報誌を正当に評価できる能力が乏しいとして、専修学校への進学に関し適切な進路指導が行えるよう第三者機関により信頼でき得る情報を提供するようなシステムの導入を考慮すべきである旨、及び専修学校の生徒募集については、進学情報誌の内容に誇大なものが多く見られることから、特に水増し入学についてはその実態を公表するなどの対策が必要である旨の質疑が文部省に対しなされた。

(三) 千葉県内の高等学校進路指導担当の教師の研究団体である同県高等学校教育研究会進路指導部会(以下「千葉県高教進」という。)は、昭和五九年に、前年及び前々年の県内の高等学校卒業生中専修学校等に進学した者を対象としたアンケート調査を実施し、その結果、東京都内の専修学校等に進学した者のうち七〇パーセントを超えた者が進学先を情報誌によって知ったこと、それに対して教師によって知った者はわずか六パーセントであったこと、また、自分の進学した学校がいわゆる無認可校であることを知らない者もいたことが判明した。このような調査結果をもとに、同六〇年六月一二日、千葉県高教進は、「進学情報誌の生徒への配付については各高校が内容を十分検討の上行うこととし、生徒に直送される場合も事前に各高校が内容を十分検討できるよう発行者に要請すること、生徒を対象とした進路に関する諸調査で生徒の氏名、住所等を書かせるものについては、各高校が内容を十分検討の上必要と認めるもの以外原則として応じないこと」等を申し合せた。

(四) 昭和六〇年三月ころ、読売新聞は、制度発足後一〇年を迎える専修学校問題を取り上げた「見直される専修学校」という連載の特集記事の中で、右千葉におけるアンケート調査の結果を引用して、進学情報誌の誇大広告等について触れ(甲物一三、甲物四三)、同年六月には右千葉の申し合せの内容を詳しく伝える記事を掲載した(甲物一一)。また、同じく専門学校新聞、日本教育新聞等にもその内容を伝える記事が掲載された(甲物一一、四三)ほか、リクルートを名指しで批判する書籍も発刊された(甲物三六)。

(五) 昭和六〇年七月末に開催された全高進研究協議大会の分科会において、参加教諭から、「専門学校進学指導の現状と課題」と題する発表が行われ、その中で、進学情報誌における誇大広告や無認可校等の問題が指摘され、各高校は宅配のための名簿提供はやめるべきであるとの主張がされた。また全体会においても、千葉県内の教諭が、千葉の申し合せを配付し、この趣旨を全国的に広げるよう発言した。

5 進学情報誌の取扱い等に対する文部省の取組み

(一) 法令によれば、文部省(あるいは文部大臣)は、地方公共団体(あるいはその長)又は教育委員会に対し、教育行政の運営等についての指導、助言及び勧告、教育事務の管理、執行の是正、改善のための措置の要求並びに資料等提出の要求をするなどの権限を有するところ(文部省設置法六条一〇号、一一号、二四号、地方教育行政の組織及び運営に関する法律四八条一項、五二条一項、五三条一項、五四条二項)、初等中等教育局(以下「初中局」ともいう。)は、幼稚園、小学校、中学校及び高等学校における教育(「初等中等教育」とされている。)のあらゆる面について、教育職員その他の関係者に対し、専門的、技術的な指導と助言を与えること、初等中等教育、とりわけ高等学校教育における進路指導に関し援助と助言を与えること等の事務を所掌し(文部省設置法二条二号、三号、文部省組織令八条三号、七号(なお、七号に「職業指導に関し」とあるが、学校教育法施行規則六五条、五二条の三に照らして「進路指導に関し」と同義と解されている。))、高等教育局は、高等学校卒業程度を入学資格とする専修学校及び各種学校の教育に関し、援助と助言を与えること等の事務を所掌し(文部省組織令一〇条一三号)(但し、昭和五九年七月までは管理局が所掌していた。)、したがって、文部省は高校の進路指導教育現場における進学情報誌の取扱い等に関して、指導、助言、援助等を行う権限を有していたこととなる。

(二)(1)  文部省は、昭和五九年四月ころ以降、財団法人専修学校教育振興会が進学情報誌の誇大広告問題に対処するため、高校側と専修学校側が協力して公的な専門学校情報誌の発刊を検討するための「専門学校進学情報委員会」を設置することにつき、専修学校教育の振興に関する事務を所掌する管理局企画調整課専修学校企画官を関与させるとともに、設置後は同企画官及び初中局職業教育課進路指導担当教科調査官を右委員会の会議に助言指導者として出席させていた。

(2)  初中局職業教育課においては、昭和六〇年六月開催の文部省主催の各学校の進路指導主事を対象とした中央講座のカリキュラムに専修学校情報等についての講義を盛り込み、また、同年一〇月に文部省が発行した「中学校・高等学校進路指導の手引第一六集主体的な進路選択力を育てる進路指導-進学指導編-」(甲物八二)に、「情報企業の提供による資料に依存しすぎている実態がある。」、「独自の進路指導の手引を作成するなど創意工夫が望まれる。」、「多数の媒体業者により提供される情報資料の量は多いが、高等学校側にとって進路指導上必要な情報の内容に関するものが少ない。」等の記載をした。

(3)  また、高等教育局においても、予算化を得て、昭和六一年一月二三日、専修学校の生徒募集の適正化や高校における専修学校への進路指導の充実のための方策等を調査研究することを目的として同局に「専修学校教育の改善に関する調査研究協力者会議」を設置した。

6 各種批判に対するリクルートの対応

(一) 進路情報部は、前記4記載の各種批判をつとに掌握していたため、リクルートを批判する教師に対して、中元、歳暮を送るなど、前記認定のとおり、高校リレーションに努め、良好な関係作りに力を入れていた。

(二) ところで、千葉県の申し合せが前記認定のような、いずれの事柄についても各高校による内容検討を行うことを条件とし、いわば一律に拒否するものでなく各高校の裁量判断の余地を残す形で決着をみざるを得なかったことについては、進路情報部による同県高教進の上層部の教師に対する働きかけがあったことも一因と認められる。

(三) しかし、進路情報部は、右千葉の申し合せが、その後前記4の(四)認定のとおり、報道等されたこともあって、高校生リスト収集拒否の動きが他の地域に及ぶことや文部省が千葉の申し合せを契機として何らかの動きに出ることを懸念し、同省等とのリレーション作りを含む各種対策を盛り込んだ「進学ブック配本をめぐる社会環境の変化について」と題する書面(甲書三五八)を作成して取締役会に報告し、その一環として、全高進及び都道府県単位の進路指導主事会に対し、リクルートへの協力を求めるための働きかけをし、また初中局の前記教科調査官に接触して動きの有無を探った。

(四) 前記4の(五)認定のとおり、昭和六〇年七月末の全高進研究協議大会の全体会で千葉県内の教諭の発言があったものの、全高進事務局長の計らいにより、これを議題として取上げることとならなかったが、その一因は進路情報部の根回しがあったことによると認められる。

(五) 進路情報部は、昭和六一年二月のリクルート取締役会において、当時においても、千葉県に高校生リスト収集と宅配に対する協力を拒否する動きがあるが、現状では全国に波及する恐れは少ないとの状況分析をした上、なお今後とも要注意である旨の問題提起をしていた。

(六) また、進路情報部では、昭和六一年一月開催の教育機関広報事業部の部内会議である本部会(部次長会)や、同年三月開催の同事業部経営会議において、前記5の(二)の(3) 認定の専修学校教育の改善に関する調査研究協力者会議の今後の動向を慎重に見守っていく旨報告し、併せて右協力者会議の座長及び前記教科調査官を接待して、右協力者会議の模様を聞き出すことに努めた。

(七) 以上認定した事実によると、進路情報部は、千葉の申し合せ等反リクルート的な動きが全国に波及することを懸念し、各高校や全高進のみならず、文部省の動向にも注意を払い、情報収集に努めていたものと認められる。

二 リクルートの役職員の文部省所管の審議会、協力者会議の委員への就任

1 文部省における委員の選任

文部省は、法律又は政令の定めるところにより、その所掌事務の重要事項に関して調査審議等をつかさどらせるため、学識経験者等の委員で組織する合議制の機関、すなわち審議会等を設置している(国家行政組織法八条、学校教育法六九条の三、四、文部省設置法七条、文部省組織令七〇条等)。また、法律に直接の根拠はないものの、各局に、その所掌事務の円滑かつ効率的処理に資するため、学識経験者等を委員に委嘱し、特定の事項について検討を行うための各種の協力者会議を随時設置している。

2 リクルートの委員就任方針とその目的、効果等

リクルートは、昭和五九年一月一八日の取締役会において、「業界団体、行政への応分参画について」との議題の下、労働、建設及び文部の三領域で委員会組織に参画していく旨の方針を決定した。その背景には、もとより、リクルートが大企業に成長してきたとの自負からこのような方針を打ち出したとの一面があることは否定し難いが、これら三省、とりわけ文部省は、先に認定したところから明らかなとおり、リクルートの進学情報誌発行事業の円滑な運営に関連する行政機関として位置づけられ、文部行政の動向如何が進学情報誌に係る先認定の諸問題に反映する関係となっていることから、リクルートにとって右動向等の諸情報を逸早く入手し、もって適切な対策を講ずる必要性があったものと認められる。またリクルートの役職員が文部省の各種委員に就任することにより、高校等の教師等に、リクルートという会社若しくは当該役職員に対する信頼感を抱かせるという結果を生ぜしめることとなるであろうことも一般的に肯認できるところである。

3 リクルート役職員の委員就任状況

(一) 文部省初中局職業教育課は、昭和五九年六月ころ、「中学校・高等学校進路指導の手引作成協力者会議」の委員として進路情報部次長を選定し、被告人丙は、初中局長として、同年八月これを決裁し、同様、翌六〇年七月ころ、同次長を再任し、同被告人は、初中局長として、同年九月これを決裁した。

(二) 同じく職業教育課は、昭和六〇年五月ころ、「産業教育の改善に関する調査研究協力者会議」の委員として、進路情報部長を選定し、被告人丙は、初中局長として、同年五月これを決裁した。その後同部長の転出に伴い、同部長の推薦を得て、同年八月ころ、その後任として同部次長を選定し、同被告人は、初中局長として、同年九月これを決裁した。

(三) 被告人丙は、昭和六〇年七月、初中局長として、同局所管の審議会等の中で最も重要と目されていた教育課程審議会委員の人選について所管課の小学校課長からAを候補とする原案を示されてこれを了承し、自ら文部大臣及び文部事務次官の内諾を得た上、同年八月、右任命の原議書を決裁し、同年九月、文部大臣がAを右審議会委員に任命した。更に、同被告人は、昭和六一年九月、文部事務次官として、Aを右審議会委員として再任する原議書を決裁し、同月、文部大臣がAを同委員に再び任命した。なお、同被告人は、本件後の昭和六二年九月、事務次官として、Aを右審議会委員として再任する原議書を決裁している。

(四) 被告人丙は、昭和六一年九月、事務次官として、高等教育局私学部学校法人調査課所管の学校法人運営調査委員について、Aの辞任申し出を了承し、その後任としてリクルート推薦に係る同社専務取締役を選任する旨の原議書を決裁し、引き続き、同取締役の任期満了に際して再任の原議書を決裁している。

(五) 被告人丙は、事務次官として、本件後の昭和六二年九月、学校教育法により文部省に置かれた大学審議会の委員として、Aを選任する原議書を決裁し、文部大臣が同人を右委員に任命した。

4 弁護人の主張について

弁護人は、A及びリクルートの役職員が文部省所管の各種委員に選任されることは客観的にリクルートの事業にとって何ら利益とならず、むしろ同社の収集した各種調査結果が文部省に利用できるという同省側にこそ利益があった旨主張する。しかしながら、先にみたとおり、リクルートの進学情報誌発行の円滑な事業遂行にとって文部省の各施策等に関する動向を早期に知ることが少なからざる利益をもたらすものであると解されることは多言を要しないところであって、そのような観点から各種委員に就任することは文部省の関係者と接触する機会も増大し、したがって、文部行政に関する情報を得やすくなるものと認められ、これは、とりも直さず、リクルートのいう文部省リレーションの一環と解すべきものである。のみならず、一般的に、現場の高校等の教師等に信頼を得る契機となるであろうことも先に述べたとおりであり、現に、例えば、千葉県高教進事務局長で進路指導を担当していた証人Pは、Aが教育課程審議会委員であり、他の役職員が進路指導の手引作成協力者会議委員であったことがリクルートに対する信頼感を抱いた一つの理由となった旨証言しているのである。そして、前記2認定の文部省の委員会組織に参加していく旨の取締役会決定方針を社内報で報じている事実が認められることに照らしても、右決定が、Aら幹部において、リクルートの事業遂行上有意義な方針であるとの認識に基づくものであったことは明らかである。これに反するAらの公判供述は、いずれもその内容が不自然で信用できない。なお、また弁護人は、リクルートが、委員選任を積極的に働きかけていないこと、A及びその役職員が文部省の各種委員会の委員になっていることを積極的に宣伝していないことを挙げて、委員選任による前記利益がなかったこと及びその認識がなかったことの証左であると主張するが、前記3認定のとおり、リクルートの占めていた委員の後任にはいずれも自社の者を推薦しているところ、たとえ、弁護人指摘のように積極的に働きかけ、若しくは積極的な宣伝がなかったとしても、そのことと委員就任に客観的な利益があったとの認定とは矛盾するものではなく、右認定の取締役会決定等の事実に徴して、リクルートとして委員就任に積極的であったことは否定し得べくもない。弁護人の主張はいずれも採用できない。

第二Aの本件コスモス株譲渡と被告人丙の委員選任に関する職務行為との対価性及び譲渡の趣旨

一 既に認定したとおり、リクルートの進学情報誌事業に対しては種々の批判があり、それに対する文部省の対応如何によってはその事業遂行に影響を与えかねないところであって、そのためにはできる限り同省の動向を事前に収集して対策を講じることが肝要であると認められるから、かねて提唱していた文部省リレーションの一環としての役職員の文部省所管の委員への就任は事業遂行上有益であったと解される。そして、教育機関広報事業は、前記第一の一の1の(三)認定のとおり、創業以来順調に売上を伸ばし、リクルートにとって重要な事業部門の一つであったことは明らかであり、したがって、同事業部の発展を企図して前記第一の二の2認定の文部省所管の委員会組織への参画を取締役会として決定したと認められる。

ところで、Aは右取締役会に出席していたことが優に認められるところ、その後の昭和五九年六月及び同六一年二月開催の取締役会において、いずれも対行政リレーションの強化について検討されていること、前記第一の一の3認定のとおり、A自身教育機関広報事業担当者らと被告人丙らをはじめとする文部省幹部を接待していること等に徴すると、進学情報誌事業を遂行していく上で文部省とのリレーション活動は極めて有用なものであり、その一環として委員就任を企図していくことの重要性はつとに認識していたものと認めるのが相当である。なる程、Aは自身の委員就任及び自らの後任委員就任を除く、その余の役職員の具体的な委員就任の事実を知悉していたか、必ずしも判然とはしないが(A名義の他の役職員に係る委員就任に関する同意書は存在するが、そのことから直ちに知っていたとも言い難い。)、およそ委員就任の方針を会社として打ち出した以上、これに沿った方向で運用されていたものと認識されるべきであり、現に、同六一年二月の取締役会においては、社長室でどの役職員が社外のどの委員会活動に従事しているかを把握すべきであるとの提案がなされ、これが実施に移されていたことも認められるから、然るべき役職員が文部省所管の委員会の委員に就任しているのであろうことを認識していたものと推認できる。

なお、Aと被告人丙との間に、前記第一の一の3で認定した各種の飲食やゴルフ接待の他に何ら個人的関係に基づく交際をしていた事情が存しないことは明らかであり、Aが同被告人の長男や長女の結婚式に招待された事実があったからといって、同被告人には政治家志向があったというのであるから、それが個人的な交際の存在を示すものとは到底認められない。

以上により、Aは判示認定の趣旨で、コスモス株を譲渡したものと認定することができる。

二 これに対して、弁護人は、Aが被告人丙に本件コスモス株を譲渡した理由は、同被告人が人物、識見とも優れ、大変な力量の持主であるのでコスモスが株式を公開するに当たり安定株主になってもらいたい気持ちがあるとともに、同被告人が近く政界に転出すると伝え聞いていたので、その選挙活動の足しにでもなればという思いからでもあった旨主張し、Aもこれに沿う証言をしている。しかしながら、同被告人とAとの間に、仕事を離れた個人的な交際がないことは前記認定のとおりである。また、同被告人が政治家志向をもちAがそれを聞き知っていた可能性があり、したがって、Aが証言するような意図も否定できないところではあるが、これがあるからといって、前記わいろの趣旨の認定を妨げるものではない。

第三被告人丙の認識

一 被告人丙の本件コスモス株譲受け状況

1 昭和六一年九月上、中旬ころ、Aは、被告人丙に「このたびリクルートグループであるリクルートコスモスの株式を公開することになった。ついては一万株持ってもらいたい。価格は一株当たり三〇〇〇円です。甲を手続等のことで差向ける。」旨電話し、Aの指示を受けた被告人甲は、被告人丙の事務次官室を訪ね、同被告人に対し、コスモス株一万株の譲渡について、その代金が三〇〇〇万円になることや全額ファーストファイナンスによる融資が可能であることを伝えて、株式の売買約定書等必要書類を提示した。その際、利息は年七パーセントである旨、また株式公開は一〇月末である旨をも話した。被告人丙は、この申し出を承諾し、全額ファーストファイナンスの融資を受けることとし、右売買約定書等に署名・押印して、被告人甲に交付した。

2 その後、同年九月三〇日、ファーストファイナンスから被告人丙に対して、右コスモス株の代金三〇〇〇万円が融資されるとともに、右融資金は、所有名義人三起の口座に振込まれ、これによって、同被告人は、右コスモス株一万株を取得した。

二 株の利益性に関する認識

被告人丙は、A及び被告人甲から、コスモス株譲渡の話しを持ちかけられた際、右認定のとおり、コスモス株が近々公開されることを承知した上、かねてコスモスは順調に業績を伸ばしていることを聞き知っていたこと、自らも株の購入、売却を手掛けた経験もあること等に加えて、被告人甲を通じて、Aから株の売買代金の全額を融資することまで申し出られていることに徴すると、被告人丙は、近々公開予定の本件コスモス株が公開時確実に値上りすること及び一般人の入手が困難であることを認識していたものと認めるのが相当である。これに反する被告人丙の公判供述はいずれも信用できない。

三 職務との対価性に関する認識

1 既に認定したとおり、被告人丙は、Aを初めとするリクルート役職員を文部省の各種委員に選任する旨の決裁をし、これにより同人らが委員に就任しているところ、一般に委員就任の事実は当該会社にとっても当該役職員にとっても利益をもたらすものであろうことは先にもみたとおり、多言を要しないところである。のみならず、文部省においては、前記第一の一の5認定のとおり、進学情報誌の取扱い等につき各種の取組みがなされているほか、例えば同被告人の初中局長時代に発刊された中学校・高等学校進路指導の手引(進学指導編)(甲物八二)中にも進学情報誌の内容、扱い等に触れる部分があること等に徴すると、進学情報誌発行を事業とするリクルートの教育機関広報事業にとって、文部省は係わりのある行政機関と観念されるところであって、このことは長年教育行政に携わってきた同被告人において了解していたものと解される。これに対して、同被告人は、リクルートが進学情報誌を発行する事業をしていること自体を知らず、ひいて文部省はリクルートの事業に関係ない旨公判廷で供述するが、同被告人は、かねてリクルートからその主催する各種学校セミナーで専修学校に関する講演を依頼されたり、教育機関広報事業部一〇周年記念パーティーで祝詞を述べたり、あるいは進路情報部の者の訪問を受けてその仕事内容を聞いたりなどしていたことも認められ、このような事情を考慮すると、文部省の動向がリクルートの進学情報誌事業に何がしかの影響を与えるものであると理解されるところであり、同被告人の右公判供述は、到底信用することはできない。

また、同被告人は、Aらと個人的な交際関係があったとは到底認められないことは先に認定したとおりであるから、同被告人に対するA及び教育機関広報事業担当取締役らによる前記の各種接待の趣旨が自己を含む文部省所属の者との関係を密にし、もって進学情報誌事業の円滑な運営を企図するところにあると理解していたものと考えるほかなく、そうである以上、同被告人は文部省が各種審議会や協力者会議の委員にリクルートの役職員を選任することがリクルートと文部省とがより一層親密な関係を作り上げることに役立つなどリクルートにとっての利点があることはこれを認識していたものと認められる。

してみると、本件コスモス株譲渡の申し出をAから受けた際、右申し出が、判示認定の趣旨であることを認識したものと認めるのが相当である。

2 弁護人は、被告人丙の委員選任に関する決裁行為はいわば事務的になされたにすぎず、そこには同被告人の主体的関与若しくは好意的取計らいは一切存在しないと主張する。なる程、同被告人にことさら好意的取計らいをする意図があったとは解し難いが、およそ委員選任に関する原議を決裁する以上、その内容を了として決裁していると認められるのであって、弁護人の主張は当を得たものとは言い難い。もっともリクルート役職員の委員選任に関する決裁欄の丙とある印影が自己によって押捺されたものでない疑いのある原議書もあるが、これとても事務次官若しくは初中局長として決裁していることは明らかであるから、その内容を了承した上でなされたものと認めるほかない。そして、その余のいくつかについては自署されていることも明らかである上、役職員の一人からは直接委員就任の挨拶を受けているほか、判示のころ学校法人運営調査委員のAから専務取締役への交代については担当課長から直接聞くなどしていることも認められる。弁護人の主張は採用できない。

第四検察官の主張する被告人丙の不作為としての職務行為が認定できない理由

一 本件公訴事実は、本件株譲渡の趣旨として、第二認定の被告人丙の委員選任に関する職務行為のほか、同被告人のリクルートが行う進学・就職情報誌の配本に関して高等学校の教育職員が同生徒の名簿を収集提供するなどの便宜を与えていることについての対応に対する謝礼並びに今後も同様の取計らいを受けたいとの点を挙げている。検察官は、対象情報誌を高校生向け進学情報誌に限定した上、同被告人の右「対応」の点につき、その内容を敷衍して、「リクルートの高校生向け情報誌は、その掲載内容に誇大なものがあったこと、無認可校の生徒募集広告が混然と掲載されていること、同情報誌が宅配されるため高校教諭がその内容を把握できないこと、高校生リストを特定私企業に提供することには生徒のプライバシー保護の面においても問題があること等が指摘され、批判にさらされていたのであるが、文部省としては、高校生リストの提供等について実態調査を行い、これらの問題を是正するための各種の行政措置を採ることができたにもかかわらず、数次にわたり国会での質疑やマスコミ報道によって問題点を指摘されても自ら積極的に実態を把握しようとはせず、リクルートの高校生向け情報誌事業に影響を与えるような措置を何ら採らなかった」として、同被告人の不作為を主張する。

ところで、検察官主張の不作為としての職務行為のうち、進学情報誌における無認可校及び誇大広告各掲載問題については、前記第一の一の5の(二)認定のとおり、文部省としての取組みがなされているところであって、これに関して不作為があったとの指摘は当たらない。問題は、第一の一の4に認定した批判からも明らかなように、高校生リスト収集にまつわる諸弊害に対処するための行政措置(実態調査を含む。以下同じ。)を採らなかったとの不作為がわいろ罪における「職務」に該当するかどうかである。

二 文部省は、本件を含むいわゆるリクルート事件発覚後の平成元年二月一三日、文初職第八三号をもって、初等中等教育局長名義で各都道府県教育委員会教育長、各都道府県知事及び附属高等学校を置く各国立大学長宛て「高等学校における進路指導の充実について」との通知(甲物一三〇)を発出し、これに関する留意事項の一つとして、「組織的、継続的な観察、その他の方法によって収集された資料に基づき、生徒一人ひとりの能力・適性、興味・関心等についての理解を一層深めること。なお、企業の行う進路希望調査については、生徒の名簿等を利用することにより営利を得ることを目的としているものには協力しないようにすること。」との指摘をし、文部省としての行政措置を講じたことが明らかである。そして、右通知の本文には、「最近、いわゆるリクルート問題に関連した種々の報道がなされており、生徒に対する指導や保護者との連絡を進める上で、進路指導の在り方について見直しを行うなどの必要が生じております。」との記載があり、この記載からも明らかなとおり、この通知発出のころは、種々の報道も契機となって、文部省、とりわけ初中局において、検討がなされた結果として、進路指導のあり方について見直しを行う必要性が現出していたとの状況認識があったものと推認できる。ところが、本件は、右を遡る三年近く前における文部省内の動向が問題とされているのであって、本件全証拠によっても、当時、高校生リスト問題について、局議、課議等で議論、検討等された事跡は全くなく、いわんや被告人丙が事務次官若しくは初中局長として右問題を承知しながらことさら検討を回避させる指示等を行った事跡もない。この点、検察官の主張は、平成元年当時の右通知発出の事実を捉えて本件当時にもこのような通知を発出できた筈だというのであるが、問題は文部省において当時この種の通知を発出するなどの行政措置を講ずるのを相当とする状況認識に至っていたかどうかである。確かに前認定の高校生リスト収集問題に対する批判が公刊物に掲載され、これが文部省内にも達していたと推認できる上、前記進路指導教科調査官は頻繁にリクルート関係者等と接触していることによりこの問題の所在を把握し、同調査官なりの対策等を課内の者に話したことも認められるが、これが職業教育課、ひいては初中局において取り上げられるといったこともなく、また、昭和六〇年六月の既に認定した千葉の申し合せ以降同様の申し合せが全国に波及するといった情勢にもなく、加えて、各高校はもとより、各地の教育委員会等から高校生リスト収集問題に関する照会等もなかったことも優に認定できるから、右リスト収集問題を検討対象とする動きが当時文部省内にあったか疑いが残るといわざるを得ない。換言すれば、何らかの行政措置を、義務として採るべきか、裁量として採るのが相当かどうかを検討するに適する状況があったとは認め難いと考えられる。

してみると、文部省内若しくは初中局内のこの問題に関する対応が未だ現実化したとも認められない以上、何らかの行政措置を採るのが相当であったとして、事務次官若しくは初中局長として当該行政組織を掌理する立場にある被告人丙の不作為を職務行為として捉えるのは困難であると解するほかない。なお、近い将来における不作為を問題とすることも、このリスト収集問題に対する検討が右にみたように未だ開始されたともいえない状況にあっては、省として若しくは局として近い将来どのような対応をするのが相当かどうかすら判明せず、そうである以上、将来の不作為を職務行為として問題とすることも相当でない。

検察官のこの点に関する主張は失当である。

第四章被告人甲の罪責(NTT及び文部省両ルート)

第一争点

被告人甲は、既に認定したとおり、被告人乙ら各人への本件コスモス株譲渡の手続を行い、これによりこれらの者が確定的に取得することとなったもので、被告人甲の右行為は贈賄罪(日本電信電話株式会社法の規定するものを含む。以下同じ。)における供与を担ったものとして、実行行為に該るといわざるを得ない。したがって、同被告人の罪責の有無は、贈賄罪の故意に欠けるところがないAとの共謀の有無に帰着するところ、同人との間に明示の共謀はこれを認めることはできないから、黙示の共謀が認められるかどうかが争点となる。なお、同被告人は、Bに対する譲渡手続について、Aからは、単にNTTの秘書室若しくは秘書のOに対する譲渡手続をするように指示されたに過ぎず、Bに対するものとは考えてもいなかった旨公判廷で供述しているが、右指示は、被告人丙、同乙及びCに対する指示の後にあったものである旨被告人甲は公判廷で自認しているところであって、右の者がいずれも重要な職責を担っている人物であることは同被告人も認識していたことが明らかであるから、同被告人が譲渡の相手方を文字どおりに理解したとは考え難いところ、Oは、その供述調書において、手続に来た同被告人に対し、「書類の名義はB社長とも相談の上私にする。」旨述べたと明確に供述している。弁護人は、右供述はOが証言を拒絶したことにより採用されたものであること等を理由として、信用できない旨主張する。しかしながら、Oの右供述内容は、反対尋問を経ていないといっても、Bの「Oと話してOの名義で引き受けることとした。」旨の公判供述とよく符合するところであって、しかもそれ自体極めて印象の強い体験供述と解されるから、優に信用できるといわざるを得ない。したがって、同被告人は、Oからこのような説明を受け、実質的な譲渡先がBであることについて確定的に認識したものと認めることができる(同被告人も、在宅時における取調べにおいて、Oから、同趣旨のことを言われたと供述している(乙書四九)。右供述につき、同被告人は、口頭若しくは内容証明郵便をもって取調検察官に訂正を求めたことが認められるが、この訂正を求めるに至った経緯には、刑事訴訟法三二八条該当書面として取調べた同被告人の供述調書(乙書七二)に照らして不自然さが拭い切れず、ひいて譲渡先がOであると思っていた旨の同被告人の公判供述は到底信用できない。)。

第二黙示の共謀の有無

一 NTTルート

1 被告人甲の経歴等

被告人甲は、昭和三九年五月にリクルートの前身である日本リクルートセンターに入社し、以後、財務部門を中心として稼働してきたもので、昭和五五年に経理部次長となり、昭和五七年八月にグループ会社の環境開発株式会社(コスモスの前身)の経理部長を兼務し、昭和六〇年一月にコスモスの財務部長となり、同年七月に同じくグループ会社のファーストファイナンス代表取締役社長となったもので、同被告人はリクルートグループにあっては古参の社員の一人といえる。もっとも同被告人がAのいわゆる腹心の部下であるとの評価をすることには疑問があるものの、その長い勤務歴とグループ内の一つの会社の運営を委されたとの事実等に照らして、Aの指示内容を咀しゃくできる立場にあったと認められる。

2 リクルートの回線リセール事業及び同事業とNTTとの関係に関する認識

被告人甲は、リクルートが当時新規事業として回線リセール事業に力を入れていることは、社内の人事異動記事の内容等から把握していた上、その事業内容がNTTから回線を仕入れ、これを小分けして顧客に再販売するというものであることはAからも聞いた旨公判廷においても認めている。加えて、同被告人にも配付されていた当時の社内報(RMBや週刊リクルート)には、回線リセール事業の全国展開に関する記事及び右事実に関してNTTの保守を受けること等NTTの関与を示す記事が各種掲載されていたことに照らせば、同被告人が、リクルートの回線リセール事業とNTTとの間に仕事上の繋がりがあるものと認識していたことは明らかである。

この点に関して、弁護人は、同被告人がこれら社内報に関心がなかったのでいずれも読んでいない旨主張するが、同被告人は、公判廷においても時によってはぱらぱらと見ていた旨供述しているほか、それらの記事が当時頻繁に掲載されていたことに徴すると、記事内容を全く知らなかったなどとは到底いえない。

3 結論

被告人乙、C及びBがNTTにおける判示認定の役職にあって、それぞれ重要な職責を担っている人物であること、リクルートは新規事業として回線リセール事業に力を入れていること、この事業はNTTの敷設する高速デジタル回線を使用することにより成り立っているものであることは被告人甲においていずれも認識していた。そして、リクルートが力を入れている背景にはNTTが昭和六〇年四月に民営化され翌六一年秋からはいくつかの電気通信事業者が登場することが見込まれているということがあり、このことは当時一般に知れ亘っているところであって、同被告人も知っていたものと推認できる。また、民営化までは公務員とみなされていたNTTの幹部である右各人への未公開株の譲渡手続によりこれらの者が利益を取得することについても同被告人に認識があったことは既に認定したとおりである。右のような認識状況に前記1認定の同被告人の置かれた役柄等を考慮すると、Aから譲渡先を指定して手続きを指示された同被告人としてはこれらの者が回線リセール事業の支援に関する種々の職務を行い若しくは今後も行うであろうと理解したと認めるのが相当である(同被告人にNTTがRCS事業に関係しているとの認識があったとは認められないことは後記のとおりである。)。

ところで、これらの者の職務権限は既に認定したとおり、広汎に及んでいるところ、回線リセール事業との関係でみる限り、本件株譲渡と対価性のある職務とは同事業を遂行していく上で役立つあらゆる行為を包含するものと解され、現に、これらの者の行った職務の具体的内容は既に認定したとおり多岐に亘っており、同被告人にこれらの者が回線リセールに関しどのような職務をしたか具体的な認識はほとんどなかったと解されるが、右認定の理解に達している以上、同被告人に贈賄の故意に欠けるところはないと解するのが相当である。してみると、同被告人にAとの黙示の共謀が肯認できるというべきである。

なお、同被告人は、リクルートが当時RCS事業を新規事業として行っていること、リクルートが右事業に関してクレイ社製のスーパーコンピューターを導入することは、いずれもこれを知っていた旨公判廷において認めているものの、右RCS事業がNTTと関係を有していることは知らなかったと述べている。なる程、当時これを窺わせる記事が雑誌等に出たことはあるものの、単発的であったり、そのことが直ちには理解できないような記事内容であるなど回線リセール事業に関するものとは扱いを異にしているから、同被告人の弁解もあながち不合理ともいい難い。同被告人の供述調書にはこれを肯定するものと否定するものとあるが、前者にあっても結論的に肯定するに過ぎず、その根拠に触れるところがないこと等に鑑み、その信用性には疑問が残る。したがって、同被告人に、当時、NTTがRCS事業に関係しているとの認識があったものとは認定できない。

二 文部省ルート

1 リクルートの教育機関広報事業及び同事業と文部省との関係に関する認識

被告人甲は、リクルートが教育機関広報事業部門を有し、進学情報誌を発刊して高校生に無料で配本していたことを本件当時認識していた旨公判廷において供述している。もっとも同被告人が、前記第三章第一の一の4において認定した教育機関広報事業に関する種々の批判が存在し、リクルートがこれに関する文部省の対応について懸念していたこと、文部省リレーションと称して同省との良好な関係を維持することを重視し各種の接待をしていたこと等を知っていたか否かは必ずしも明らかでなく、また同被告人は入社以来、教育機関広報事業部門に席を置いたことはなく、リクルートが文部省との良好な関係を維持することを重視し出した昭和五八年以降は、別会社であるコスモス経理部あるいはファーストファイナンスで稼働していたこと等に照らすと、同被告人は、リクルート内において、これらの具体的事実を仕事上直接体験する機会はなかったものと認められる。しかし、同被告人は、昭和五八年まではリクルート内で仕事をし、部署が異なるとはいっても、部次長会、早朝マネージャーミーティングあるいは決算マネージャー会議等の各種会議には出席する機会を有しており、それらの各種会議の際に、教育機関広報事業部門から、進学情報誌の配本に関して宅配を重視し、そのために高校生リスト収集が必要であり、高校教師の協力を得ることが重要であること等に関する報告を聞く機会があったことに加え、これらの各種会議の概要は改めて社内報に掲載されて同被告人にも配付されていたこと、その他社内報には教育機関広報事業部や進路情報部に関する紹介記事も掲載され、同被告人も、その見出し程度はこれに目を通していたと認めるのが相当であること等の事情を総合すると、同被告人が、本件当時、進学情報誌の配本に関して高校生リストを収集して宅配をしており、そのためには高校教師の協力を得る必要があるといった程度の認識は有していたものと推認するのが相当である。これに反する同被告人の供述は信用できない。

2 リクルート役職員の文部省各種委員会委員への就任に関する認識

被告人甲は、Aが文部省所管の教育課程審議会委員に選任されていたことは、本件当時既に知っていたと解される供述をしているところ、その他の役職員が現実に同省の各種委員会の委員に就任していたことはこれを知らない旨供述している。

3 結論

リクルートにおける進学情報誌事業はその歴史も古く同社にとって重要視される事業であって、このことは古くからの社員においては自明のものとされ、被告人甲においても例外ではない。そして、高校生に対する進学情報誌の確実な配付につき教師の協力を得る必要があることは、先に認定したとおり、同被告人も認識していたところ、このような配本事業は一般に教育行政如何によっては影響を受けるということも見易い道理であり、同被告人にあっても関係部署、とりわけ進路情報部において、文部省から種々の情報を得、もって円滑な事業運営に資する態勢がとられていたものと予想できたと解され、そうである以上、Aの委員就任の事実は文部省関係者と接触する機会も増えるといったことから、それなりの利益があるものと認識したものと認めるのが相当である。そして、同被告人は、被告人丙が、文部省の高官として、Aの教育課程審議会委員の選任に関与していることについては、当然に認識したものと認められる。なお、文部省の委員会組織に参画していく旨の取締役会決定は、社内報に掲載されている事実が認められるものの、それが大きく扱われているものでないことに照らすと、同被告人がこれを認識したものと推認することは困難ではあるが、右のような進路情報部に対する理解等からすると、同被告人は同部の円滑な事業遂行のため種々の方策の一つとして、本件以前においても、同部の役職員が文部省所管の委員に就任していたのではないかとの可能性はこれを認識できないものではないと解される。

してみると、Aから指示された被告人丙に対する本件コスモス株の譲渡が公務員である同被告人に対する利益を取得させるものであることは被告人甲も認識していたものである以上、役職員の委員就任の意義が右にみたようなものであることを前提に被告人丙の委員選任の対価として、これを供与することにつきAと黙示の共謀を遂げたものと認めるのが相当である。

第三弁護人の主張について

弁護人は、本件は、専らAが譲渡対象の人選をするなど主体的に動いており、被告人甲は単なる使者に過ぎず、およそ共謀を観念することはできないなどと主張する。確かに、Aが首謀者であることは疑いを容れる余地はないが、被告人甲も指示されたAの真意を忖度して実行行為に及んでいることは前記認定のとおりであるから、これがAとの黙示の共謀に該らないなどとは解されず、弁護人の主張は失当というべきである。

第五章Aの捜査段階における供述の任意性及び信用性

弁護人は、Aの捜査段階における各供述に関し、取調検察官による種々の脅迫、強要等があり、保釈で出るためには認めるしかないと思い、検察官に妥協して調書が作成されたものであるから、その供述調書に任意性がない旨主張する。この点については、本件審理の過程で判断を示したものであるが、その判断内容は、すなわち、同人の取調べ状況に関する証言が、身柄拘束時及び保釈間もない時期における弁護人に対する申述内容とほぼ同様になっていることは明らかであるものの、Aは、長期の身柄拘束を避けて保釈を得るため、事実をある程度認める旨の供述調書作成に応じ、公判廷において事実を争う旨の考えであったとも証言していることに徴すると、捜査段階から取調べ状況に関して弁護人に対し同様のことを述べているからといって、その取調べ状況に関する証言内容の信用性が高いということはできず、むしろ、Bの公判における証言内容と比べ、Aの本件における取調べ状況に関する証言内容は誇張されているものと認められること、一方、Aが作成したメモ(甲物四六七)の存在等に照らして、この間の状況に触れる取調検察官の証言の方がより信用性があること、Aは身柄拘束中も弁護人と再三にわたり接見し、適切なアドバイスを現に受けていたこと等の諸事情に照らせば、Aの各供述調書には任意性があると認められるというもので、現時点においても右判断を変更する要をみない。

ところで、弁護人は、Aはもちろん、被告人甲の検察官に対する各供述内容についても、いずれも信用性がない旨主張するところ、既に認定してきた諸事実の主要なものはいずれも被告人甲及びAの各供述調書に依拠するものではないが、これらの各供述調書も、認定にかかるところに符合する限度においては基本的に信用性があるものと解される。

(法令の適用)

被告人甲の判示一の1ないし3の各所為は、いずれも行為時においては、平成七年法律第九一号(刑法の一部を改正する法律)による改正前の刑法六〇条、平成四年法律第六一号(日本電信電話株式会社法等の一部を改正する法律)による改正前の日本電信電話株式会社法二〇条一項(一八条一項前段)に、裁判時においては、平成七年法律第九一号附則二条一項本文により同法による改正前の刑法六〇条、右改正後の日本電信電話株式会社法二〇条一項(一八条一項前段)に該当するが、右は犯罪後の法令により刑の変更があったときに当たるから、右改正前の刑法六条、一〇条によりいずれも軽い行為時法の刑によることとし、判示一の4の所為は、行為時においては、右改正前の刑法六〇条、平成三年法律第三一号(罰金の額等の引上げのための刑法等の一部を改正する法律)による改正前の刑法一九八条(一九七条一項前段)、同改正前の罰金等臨時措置法三条一項一号に、裁判時においては、平成七年法律第九一号附則二条一項本文により同法による改正前の刑法六〇条、一九八条(一九七条一項前段)に該当するが、右は犯罪後の法令により刑の変更があったときに当たるから、同法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、被告人乙の判示二の1の所為は日本電信電話株式会社法一八条一項前段に、被告人丙の判示二の2の所為は平成七年法律第九一号附則二条一項本文により同法による改正前の刑法一九七条一項前段にそれぞれ該当するところ、被告人甲については、判示一の1ないし4の各罪について所定刑中いずれも懲役刑を選択し、右各罪は同改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示一の4の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予し、被告人乙については、その所定刑期の範囲内で同被告人を懲役二年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、被告人丙については、その所定刑期の範囲内で同被告人を懲役二年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、被告人乙及び同丙が判示犯行によりそれぞれ収受したわいろは、いずれも没収することができないから、被告人乙については日本電信電話株式会社法一九条後段により、被告人丙についは右改正前の刑法一九七条の五後段により、いずれもその価額を追徴すべきところ、右両被告人に譲渡された時点における株式価格はいずれも店頭登録日の現実の初値五二七〇円と同一であると認められるから、これにより算出した価格である各五二七〇万円からそれぞれ株式取得に要した三〇〇〇万円を控除した差額各二二七〇万円をその価額とし、被告人乙及び同丙からそれぞれ右金額を追徴することとし、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文により、証人E、同D及び同Qに支給した分は、いずれもその三分の一ずつを各被告人の、証人Rに支給した分は、その二分の一ずつを被告人甲及び乙の、証人Sに支給した分は、その二分の一を被告人乙の、証人T、同U、同V、同W、同X及び同Yに支給した分は、いずれもその二分の一ずつを被告人甲及び同丙の各負担とする。

(量刑の事情)

一  本件は、いわゆるリクルート事件中、当時文部事務次官であった被告人丙及びNTT取締役データ通信事業本部長であった被告人乙が、それぞれ自己の職務に関してわいろを収受した事案及び当時リクルートの子会社であるファーストファイナンスの社長であった被告人甲が、リクルートの社長Aの指示を受けて共謀の上、被告人乙及び同丙のほか、当時NTTの社長であったB、及びNTT企業通信システム事業部長であったCに対するわいろを供与した事案である。

二  被告人甲について

本件において、被告人丙らに譲渡されたコスモス株は、当時間近に迫った店頭登録による株式公開により、値上りすることが確実であり、かつAらリクルート関係者以外の者にとってはこれを入手することが極めて困難な株式であり、これを全額ファーストファイナンスの融資を付した上で譲渡をすることは、いわば多額の現金供与に等しい行為であって、被告人甲は、Aの指示を受けた際、そのことを認識していたことは明らかである。更に、被告人甲は、被告人丙が文部省の高官であり、B、被告人乙及びCがNTT幹部であることを承知し、したがって、Aの指示がわいろ供与に当たることについて認識しながら、安易にこれに従い、ファーストファイナンスの社長として株購入代金を全額融資し、また譲受人と面談して売買約定書等の必要書類に署名を求めるなどわいろ供与に不可欠の重要な行為を自ら行ったもので、わいろの対象である職務行為に関してその詳細を認識していなかったとしても、その責任を軽視することはできない。しかしながら、被告人甲の本件における役割はAの指示を実行に移すものであって、譲渡の主体ではなく、また本件の中心人物でもないこと、過去何ら前科がないこと等の事情を考慮すると、刑の執行を猶予するのが相当である。

三  被告人乙について

被告人乙は、NTT取締役・東京総支社長、あるいはNTT取締役・データ通信事業本部長という最高幹部の一人として、自らの職務に関係していたリクルートのAから、これが多額の現金供与に等しい行為であり、判示の趣旨のわいろに当たることを認識しながら本件コスモス株を譲り受けたもので、民営化後も、電気通信事業の公共性に照らし、公務員と同じくその職務の廉潔性が求められているNTTの職員として規範意識に欠ける行為であり、強い非難が加えられるべきである。右のように公共的性格が重視されるNTTの幹部として、多数の部下職員を指導監督する立場でありながら、安易に取引相手からの未公開株譲渡の申し出に応じた行為は、社会一般のNTTの職務の公正に対する信頼を大きく損わせたと窺われ、その社会的影響も軽視できない。その値上りによる利益も多額である上、被告人乙は、実際に、本件後間もなく株を順次売却して、約二一〇〇万円余りに上る利益を享受している。したがって、被告人乙の刑事責任には重いものがあるといわなければならない。

しかしながら、前記認定のとおり、被告人乙が、自らの職責に反してリクルートに好意的な取り計らいをしたような事実は認めることができないこと、本件株譲受は、Aからの一方的な申し出を契機とするもので、被告人乙の立場は受動的であったこと、そして、その申し出がNTTにとって重要な取引先であるリクルートの社長であったことから、これを無下に断りにくいという一面も否定できないこと、被告人乙は、昭和三一年以来、電電公社及びNTTの社員として、長期間、電気通信事業の発展に貢献してきたものであること等の諸事情も認められる。

そこで、当裁判所は、これらの諸事情を総合考慮し、被告人乙に対しては、主文掲記の刑に処するとともに、その刑の執行を猶予するのが相当と認める。

四  被告人丙について

被告人丙は、文部省の初等中等教育局長、事務次官という文部省の最高幹部で、その職務の廉潔性が強く求められる国家公務員であるにもかかわらず、文部省とその業務が直接的ではないものの関連があると認められるリクルートのAから、これが多額の現金供与に等しい行為であり、判示の趣旨のわいろに当たることを認識しながら本件コスモス株を譲り受けたもので、公務員としてはあるまじき行為であり、強い非難が加えられるべきである。国の将来を担うべき青少年の健全な育成に不可欠な学校教育等の振興及び普及を図ることを任務とし、これらに関する国の行政事務を一体的に遂行する責任を負う文部省の幹部として、部下職員に対してその範を示すべき立場にありながら、民間企業の社長から値上り確実な株を安易に譲り受けた被告人丙の本件犯行は、公務員と民間企業との癒着を連想させ、文部行政、ひいては公務一般に対する社会の信頼を著しく損ねたもので、その社会的影響が大きいことは明らかである。被告人丙は、本件前にも、リクルートから、数回にわたり飲食やゴルフ等の接待を安易に受けており、その意味でもその規範意識に問題がある。また、被告人丙が収受した利益は多額である。以上の諸事情に照らせば、被告人丙の刑事責任には非常に重いものがあるといわなければならない。

しかしながら、前記認定のとおり、被告人丙が、その職責を曲げた形でのリクルートに対する好意的な取り計らいをしたとは認められないこと、本件株譲受は、Aからの一方的な申し出を契機とするもので、被告人丙の立場は受動的であったこと、被告人丙は、昭和二九年に文部省に入省以来、公務員として長期間、その職務に精励して文部行政の遂行に功績があったこと等の諸事情も認められる。

そこで、当裁判所は、これらの諸事情を総合考慮し、被告人丙に対しては、主文掲記の刑に処するとともに、その刑の執行を猶予するのを相当と認める。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河邉義正 裁判官 若園敦雄 裁判官 佐藤晋一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!